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番外編 ある日の日常

*チアキとムギとホムラのある日のできごと 「なに飲む?」  放課後ムギと一緒に図書館で勉強した帰り、俺のフロアにある自動販売機の前でムギに尋ねる。 「これがいい」  はじめから決めていたのか、返事はすぐに返ってきた。ムギが選んだのはナタデココヨーグルト。少し前に俺のフロアの自販機に入れて以来、気に入ってくれているようだ。  俺はコーヒーでいいか。  自分の分も一緒に買って近くの長椅子へ移動すると、ムギはそこが自分の定位置とばかりに俺の脚のあいだにちょこんと腰を下ろす。そんなムギにプルタブを開けてからジュースを渡した。 「はい。どうぞ」 「ありがとう」  相変わらずあまり表情にはでないけど心なしかご機嫌な様子のムギに、やはり新しく入れることにして良かったと口元を緩める。  今日はナタデココだったけど、一緒に自販機に入れた振って飲むゼリーも気に入ってくれているようで、大抵このどちらかを選んでくれる。  和やかな雰囲気のなかコーヒーに口をつけていると、ガチャリと音を立てて近くの扉が開いた。  長い脚にすらりとした長身。均整のとれた、男の理想のような体型。その場に現れただけでぱっと周囲の目を引くのは、ホムラだ。  切れ長の瞳が、こちらを捉える。 「チアキか」 「ホムラ。どこか出かけるの?」 「いや。俺もそこに用事」  そう言って自販機を指すホムラにああ、と納得する。そういえばホムラは自販機で売っている振って飲むゼリーが好物だった。 「……相変わらずその小さいのはお前にべったりだな」  こちらへやってきたホムラか俺の前に陣取っているムギを見下ろしながら、苦々しい表情でつぶやく。 「え? ああ、ムギ?」  横からムギを覗きこむと、ホムラがいるというのに我れ関せずの態度で、ちびちびとジュースを飲んでいる。  ジュースに夢中で気づいていないのか、はたまた敢えて無視しているのかは判断がつかない。  もともとα嫌いだからわざとという可能性もあるんだけど、機嫌が良さそうだからジュースに集中しているだけかも?  他人にあまり関心を示す方でもないようだから、これがムギにとって普通という可能性もある。  今のところムギが他人といるところを見たことがないから、どれが正解なのかは本人に聞かなければわからないけど。  なんとも言いがたい表情でムギを見ていたホムラは、無理にムギと関わる気はないようで、またこちらへ視線を戻す。 「そうだ。チアキ」 「ん?」 「お前のとこの自販機、粒々みかんジュースが入ってないだろ。今度入れとけよ。わざわざ自分のところまで買いに行くのは面倒だ」 「みかんジュース?」 「言っておくが、ただのみかんジュースじゃなくて粒々の入ったやつだからな。あとオレンジじゃなくてみかんだぞ。間違えるなよ」  重要ポイントだと念押しされて、戸惑いながらも頭の中のメモ帳に書きこんでおく。  みかんの粒々のやつだな、あとで業者に頼んでおこう。  そんなことを考えていると袖の部分をくいと引かれた。  「チアキ」 「なに? ムギ」  くいくいと袖の部分を軽く引きながら、ムギがこちらを見上げてくる。黒縁のメガネの奥で、黒くてビー玉のような瞳が俺の姿を映していた。 「ボクも粒々の入ったみかんジュース、飲みたい」 「ムギも?」  同じものを所望してくるムギに、眉を軽く跳ねさせる。このふたり反りが合わないように見えて、飲み物の好みは一緒なんだな。  密かに驚いていると、ホムラが缶を振りながら俺の隣に腰を下ろした。  その手には飲むゼリー。プシュッと小気味よい音を立ててプルタブを開けるホムラの手もとを、ムギがじっと見つめている。 「ホムラが持ってるの、それムギも好きなんだよね」  同意を求めるとムギがこくりと頷いてくれる。 「これホムラのフロアで見つけてうちにも置いてもらうことにしたんだよ」 「そうなの……?」 「そうだよ。ムギが好きかなって思って」 「うん。粒々とかごろごろとか好き。ありがとう」 「どういたしまして」  そういえば、さっきホムラが言っていたみかんジュースも粒入りだから食感を楽しむ系のものだな。  

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