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番外編 ある日の日常2
そんなことを考えていると、ホムラがこちらをまじまじと見ながら首を傾げた。
いつも下校している時間よりもだいぶ遅い時間なのに、いまだに制服姿のままでいる俺とムギに疑問を持ったらしい。
「まだ制服のところをみると、お前達今帰ってきたのか?」
「うん。もうすぐ中間テストがあるから、図書館でムギの勉強みてたんだ。頑張ったから今はそのご褒美タイム」
俺の言葉に、ムギが嬉しそうに背中を凭れかからせてくる。かわいい。
「勉強? まともに授業を受けていたら、テスト前に敢えて勉強する必要なんてないだろう」
「いや、ムギはまともに授業受けてないみたいだから」
「は?」
間の抜けた声をあげるホムラに、ようやくムギが目を向けた。
「授業中は退屈だから、小説を読むか寝てる」
「なんだって?」
こう見えて優等生のホムラにとってムギの授業態度は信じがたいものだったらしい。そんなことをする人間がいるのかとばかりにムギを凝視している。
ムギはかなりのマイペースで本能のままに生きているようなところがあるからな。
俺も初めはムギがここまで自由だとは思ってなかったんだけど。たまたま話の流れで中間テストの話になったときにムギが次のテストの存在すら覚えていなくて、そこから深く話を聞いていくうちに勉強会を開くことを決意したわけだ。
さすがに今のままだと確実に留年コースに入ってしまう。それは避けたい。
「飲みこみは悪くないから、頑張ったら次のテストは大丈夫だと思う。ムギ、一緒に二年生になろうね」
「がんばる」
一緒に頑張ろうと励ませば、無表情ながらもムギの周りの雰囲気がふにゃりと柔らかいものになった。
「狡い」
「? なにが」
「俺も勉強会をする」
「……ホムラ、さっきテスト前に勉強は必要ないって言ってなかったっけ?」
「うっ」
疑問を口にすると言葉を詰まらせるホムラ。
「じゃ、じゃあ! いつものやつに付き合えよ。その小さいのも一緒にいいから」
「いいけど……ムギも一緒にゲームする?」
ムギはそういうのをするのかな? と疑問に思いながら尋ねると、躊躇いなくコクリと頷かれる。
「チアキが行くなら、行く」
そういうことで、俺たちは三人で対戦するためにホムラの部屋に向かった。
◇◇◇◇
部屋に響く軽快な音楽と、瞳をキラキラとさせながら食い入るように画面を見つめるムギ。すでにゴールしていた俺は、そんなムギの様子を隣でハラハラとしながら見ていた。
「きれい」
「ム、ムギ? 自分のキャラ見てる?」
グラフィックの綺麗さや、細部までこだわり抜かれたコースに興奮してしきりのムギは自分が操作しているキャラクターをあまり見ていないのか、先ほどからコースアウトしまくっている。
「よし。ゴール!」
そこへ、ムギとは反対側に座っていたホムラから嬉しそうな声があがった。
ムギが何度もコース下へ落下している間にビリ争いをしていたホムラが先にゴールした。とても得意げに画面を見つめていて、素直に喜んでいる姿がなんとも言えずかわいい。
しかし、絶望的なゲームの腕を持つふたりに挟まれるというのはなかなかない経験だ。いや、ムギの場合はそもそも試合をする気がないようにも見える。けど十分楽しんでいるようなので特に口出しするつもりはない。
ホムラもご機嫌だし、これはこれでいいのかも。……多分。
「楽しかった」
それから何レースかしたあと、満足げにムギがつぶやいた。すっかりこのゲームが気に入ったらしい。ちょっと、楽しみ方がずれているような気もするけど。
「じゃあまたチアキと来いよ。三人での対戦も悪くなかった」
今日一度もビリにならなかったホムラも大変満足したらしく、またしようと快くムギを誘ってくれる。
「うん」
それにムギも素直に頷いた。
はじめに会ったときからは考えられないほど友好的な雰囲気のムギとホムラに、なぜだか感激してしまう。やはり自分の群れの子たちだし、仲が悪いよりは良いほうが嬉しい。
ジュースにしても、ゲームにしてもやはりこのふたりは好みが似ているのかもしれないなと再確認した。
◇◇◇◇
――――この日以降、俺とムギとホムラはたまに三人でゲームをするようになったのだった。
おわり
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