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番外編 スリーポイントの理由
*マオとほのぼの
「チアキ。これあげるっ」
学校までの道すがら、それまでもじもじと落ち着かない様子だったマオから、勢いよく何かを手渡された。
差し出されたものをまじまじと見つめると、それはネイビーの包装紙に茶色とシルバーのリボンがかけられたシックな箱。
「え、もらっていいの? ありがとう。なんだろう」
押しつけられたそれを受け取ると、角度を変えて眺める。
「きっ昨日フィナンシェ焼いたから! よかったら食べて」
「焼いたってにゃんにゃんが作ったの?」
目を丸くして尋ねればマオがこくりと頷く。
その答えにもう一度箱に目を向けた。マオが作って、さらにこんなに綺麗にラッピングまでしてくれたのだと思うと胸の奥がほっこりとあたたかくなる。
「嬉しい。大事に食べるね」
微笑んでから宝物を扱うようにそっとスクールバッグの中へお菓子をしまうと、マオはどこかほっとしたように頷いた。それから、恥ずかしそうに両手を擦り合わせている。
「その、前にスリーポイントシュートの仕方教えてくれたでしょ? あれから練習して少しだけど入るようになってきたから、そのお礼がしたくて」
隣を歩くマオがもごもごと口を動かす。それに俺は目を見開いた。
「スリーポイント入るようになったんだ!」
「やっ。本当に少しだから! まだ確率的には全然だし」
「それでもすごいよ。にゃんにゃんは頑張り屋だな」
たまに帰りが遅い日があるのはシュート練習をしているからなのかもしれない。あれから後も練習を続けていたなんて、マオは本当に真面目で偉い。
「そういえばΩクラスはスリーポイントシュートのテストがあるの?」
俺も体育はバスケを選択しているけど、練習はゴール下やランニングシュートが主でスリーポイントにはあまり重きが置かれていない。
まあ、αクラスは身体能力が高いやつばかりだから普通に決めることができる人間は多いんだけど。ゲーム中でもどんどん打ってくるし。
「うーん……打てなくても成績に影響はないんだけど、ゲームでどうしても勝ちたい相手がいて」
「そうなんだ」
負けん気が強いマオだからそういう相手がいてもさほど驚きはしないけど、あれだけ練習をしていたんだ、よほどその子に負けたくないんだろう。
案の定、その相手のことを思い出したのか、マオが悔しそうにその場で地団駄を踏む。
「そう! Ωにしてはちょっと身長があるからってぼくのことをバカにするんだっ。すっごく失礼なやつで!」
Ωはαに比べて線が細かったり、身長もさほど高くない傾向にある。実際に百七十後半ある俺に比べてマオは頭ひとつ分ほど小さい。
マオを馬鹿にしたというΩは百七十を超えるらしく、身長差もあってそのΩを相手にゴール下からシュートを決めることは難しい。それでもどうしても相手を見返したかったマオはスリーポイントを猛特訓したと、そういう話のようだ。
「っでもね! 昨日の授業で一回だけどシュートが入って、あいつすっごく驚いてたんだ! その表情を見たらちょっとスッキリしたんだよね」
さっきまでの悔しそうな様子を一変させて、マオがにこにことご機嫌になる。
得意げに教えられて、なるほどそれでこのタイミングでコレを渡されたのかとひとりで納得した。
「そっか、役に立てたんならよかった。またなにかあったら言ってね。俺にできることだったら手伝うよ」
清々しい表情で喜んでいるマオにこちらも嬉しくなって微笑む。それにマオも嬉しそうに笑い返してくれてなんだか幸せな気持ちになる。
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