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番外編 スリーポイントの理由2

 そんな中ふと、正面を向いていたマオの顔が強ばり、その足が止まった。 「にゃんにゃん?」 「げえ……あいつだ」  一年のΩクラスの玄関を見つめたまま、マオの顔が嫌そうに歪められる。  釣られたようにそちらへ目を向けると、数人のΩとおぼしき子達が玄関前で話しこんでいた。  その中心に、ひとりだけ長身の子が混じっているのを認めて、まさかあの子が今話していたΩなのだろうかと思案する。  また絡まれて喧嘩にならないか心配になった俺は、そっとマオを見下ろした。 「途中までついていこうか?」  それにマオはなぜか驚いたように目を剥くと、慌てた様子で必要ないと一蹴する。 「えっ。チアキは来なくていいよ! ぼくはひとりで大丈夫だから」 「……そう?」 「うん。じゃあまたねっ」  早く行けとばかりに手を振られて、なんだかちょっぴり寂しい気持ちになる。そういえば前にも、マオを教室まで送ろうとして断られたことがあったっけ。  そのときは俺が他のΩの目にとまるのが嫌、という可愛らしい理由だったんだけど。もしかして今回もそういった理由なのだろうか。  もしそうなら、そんな杞憂を本気で心配しているマオのことを可愛く思う。  付き添いは断られたけどやっぱり心配で、少し離れた場所からこっそり様子を窺うことにする。 「あ」  他のΩに紛れながら長身のΩの横を通りすぎようとするマオ。  それに目敏くも気がついたのか、長身のΩがマオに声をかけた。マオはそれを完全に無視して中へ入ろうとするけど、腕を掴まれ阻まれる。  ハラハラとしながらその様子を窺っていた俺は、我慢できずにマオの元へと向かった。 「なにしてるの」  固い声で尋ねると、マオを取り囲んでいたΩたちの視線が一斉にこちらへと向けられた。 「ち、チアキ……っ? なんでもないから! あっちに行ってて」  俺の姿を認めるなり慌てたように声を張り上げるマオに、それまで訝しげにこちらを見ていたΩたちの顔に驚きが滲んだ。 「! チアキって、チアキ・カガリ様?」 「この方が……?」  それにマオがしまったというような苦々しい表情を浮かべると、俺を隠すようにΩたちの前に立ちはだかる。 「用事があるのはぼくにでしょ! チアキは見なくていいから!」  一生懸命両手を伸ばして俺を隠そうとするマオが可愛すぎて、こんな状況だというのにうっかり和んでしまう。 「はあ!?」  だけどそれは一瞬のことで、すぐにΩたちの険しい声に険悪な空気に引き戻された。俺はひとつため息をつくとマオを自分のからだの後ろへと隠す。 「ケンカしないで。あとこの子は俺のΩだから。あんまり変なちょっかいをかけるようだったら、それなりの対応をするよ」  マオになにかあったら流石に見過ごせない。そういう思いをこめてΩたちを見つめると、彼らはたじろいだ様子で、この場を去っていった。  その背中を見送ったあと肩から力を抜く。そうしてゆっくりと後ろを振り向いた。 「にゃんにゃんも、あんまりひとりでムチャしないでね。……心配だから」  負けん気が強いところはマオの良いところでもあるけど、敵を作りやすいから心配だ。せめてもう少しこちらを頼ってほしい。俺はマオのαなんだから。  そのことを伝えると、マオはしょんぼりとしながらも頷いてくれた。 「ごめんなさい」 「うん」  反省しているんなら、これ以上言うことはない。  俺は項垂れているマオの髪を慰めるようにさらりとかき混ぜると、名前を呼んだ。それにマオがそろりとこちらを見上げてくる。 「今日学校が終わったら俺の部屋に来ない? マオが焼いてくれたお菓子を一緒に食べたい」 「! 行くっ」  せっかくだからふたりで食べたいと提案すれば、マオの表情がパッと明るくなって飛びつかれる。  嬉しそうなマオに俺もくすぐったい気持ちになった。 「じゃあまたあとでね」 「うん。約束忘れないでね!」 「そんな簡単に忘れないって」  マオは念を押すと軽い足取りで校舎の中へ入っていった。それを見送ってから、俺もαの下駄箱へと向かう。  あんなに喜んでくれるんなら誘って良かった。  帰ってからのことを考えて、つい締まりのない顔になってしまう。  マオの作ってくれたお菓子を一緒に食べるのが楽しみで、俺は鞄の上からマオからもらったお菓子をそっと撫でた。  その後たまに、マオとおやつを食べる習慣ができたのだった。 おわり

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