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if番外編 ハーレムを築けなかったら
*幼馴染み編(固定カプ)
1.どうしても離れたくない
父はアルファで母はオメガ。家で雇われているのは大半がベータで、俺は彼らに可愛がられて育ってきた。そういう環境だったから、その性差をなんとなくだけど理解していたつもりだ。
おそらく自分はアルファ性である。
第二の性を調べる前からそういう確信があった。だから小学校にあがる前に行われるバース性検査の結果がアルファだったことにも、別段驚きはしなかった。
だけど、仲のいいベータの幼馴染みと小学校から離ればなれになると知ったときは、とんでもない衝撃をうけたものである。
小学校にあがったとしても当然隣に幼馴染みがいるものだと思っていたから。それが否定された瞬間、軽いパニックに陥った。
「僕もモトキくんとおなじ学校にいく」
そうして散々両親に駄々をこねて困らせた挙げ句、無理やりベータが通う小学校に入学させてもらうことに成功した。
家が隣近所で兄弟のように育った俺たちを引き離すことを可哀想に思ったのかもしれないし、俺は普段あまり我が儘を通すこともしなかったから、数少ない息子の我が儘を聞いてくれようと思ったのかもしれない。
まあ、割りと子供に甘い両親だったっていうのもあると思う。
中学にあがるときも同じことを言って渋い顔をされたけど、粘り倒して、高校は父親が望むところへ進学することを条件に許可をもらった。
そして中二の夏休み。俺は幼馴染みの好物である寅々堂のプリンとらを手土産に持ち、幼馴染み宅を訪ねていた。
俺。
菓子折りの乗ったテーブル。
それを挟んだ向かいに幼馴染みの構図で、幼馴染みが盛大に顔を顰める。
「ぜってぇ嫌だ」
拝み倒す俺に元毅 が断言した。
「そこをなんとかお願い……っ」
「なんでおれがお前の嫁探しにつき合わないといけないんだよ。だいたい大噛学園なんてアルファとオメガの出会いの場に、ベータの俺が行く意味皆無じゃん。やだ行かない。おれは自分の行きたいところに行く。却下」
痛いところを突きまくったあと、この話はこれで終わりとばかりにつんと外方を向かれて、俺は盛大に落ちこんだ。
高校は父親の指定する大噛学園に行くことが絶対。俺の進路は小学六年のときに変わらぬものとして決定されて、俺もそれで構わないと納得していた。
それが小学校から持ち上がりの中学に通うことができる唯一の条件だったからだ。
だからもう、これまでと同じように俺が幼馴染みの進学先に合わせるわけにはいかなくて。なら、元毅に合わせてもらうしかなかったのだけど――それは今、断固拒否された。
俺の絶望は計り知れない。
正直なところ、現在俺には元毅しかまともに友人と呼べる相手がいなかった。周りには人が集まってくるし、それなりに仲良くはなるけど、アルファという性質のためか対当な関係を築けずにいる。
ベータの中にアルファが混じれば仕方のないことなのかもしれない。周囲が同じアルファだけだったならそんなことにはならなかったんだろう。
これに関してはそういう環境に身を置いた自分自身に責任があるし、自業自得だった。
それでもやっぱり、バース性の垣根なく接してくれる幼馴染みの隣が安心するというか、自分の居場所のように感じてしまうんだ。
――――拒否られたけど。
どんよりと重たい空気を背負って落ちこんでいると、元毅が気不味そうに口を曲げる。
「いつまでも俺にくっついてたってしょうがないだろ。学園で自分のオメガ見つけろよ」
「……」
大噛学園へは自分の意思で行こうと決めたわけじゃない。だけど行くと決めたからにはそこで嫁候補を見つけるつもりでいる。
俺か、同じアルファである妹のどちらかがオメガを娶って後継ぎをつくらないといけないのは決定事項だ。
けれど正直、心配なことがある。
大噛学園でのアルファとオメガの割合は圧倒的にオメガが多い。入学する少数のアルファのために、希少なオメガが全国から集められるからだ。そこでアルファは群れという名のハーレムを持つ。
問題なのはアルファが少ないと溢 れるオメガがでてくること。
オメガは他のバース性に比べてか弱い存在で、それ故にアルファに庇護されないと生きていくことが難しい。
だからアルファに気に入られようと好きでもないアルファの気を引こうと必死になることもままあるらしい。彼らにとっては生きていくために必要なことだ。
だけど俺は、アルファだからという理由だけで選んでくれるオメガではだめだ。贅沢なのはわかってるけど、それに加えて俺のことを俺として見てくれる相手じゃければ。
そういった理由で、ちゃんと自分のオメガを見つけられるのか不安に感じていた。
元毅が一緒に大噛学園に通ってくれるんなら心強いんだけどな。もしオメガを見つけられなかった場合でも、それなりに学園生活を楽しめると思うし。
そんな思いから、おそらくいつのまにか物欲しそうな顔をしてしまっていたんだろう。
「なんだよ?」
「べつにぃ」
牽制するように凄まれて、肩を竦めると元毅から視線を逃がす。
一緒にきてほしいのは山々だけど、嫌がっているのを強制はできなかった。俺の都合だし、確かに元毅には大噛学園に通うことにメリットはあまりない。幼馴染みだからといってそこまで我が儘は言えなかった。
元毅の言うとおり仕方がないことだと諦めかけていると、幼馴染みがふうっと溜め息をつく。
「甘ったれ千耀 め。……わかったよ、もー」
「!」
それを聞いて、元毅の方へぱっと視線を戻す。
「今回はこれで許してやる。ただし。こういうのはこれっきりだかんな」
包装紙を豪快に破って、白い箱を開けた元毅が整然と並んだプリンとらを見下ろしながら口をへの字に曲げる。
もうだめだと思っていたときにまさかの返事をもらえて、体温が上がった。
「うん! ありがとう元毅」
嬉しくて元毅に抱きつこうかとも思ったけど、テーブルが邪魔で断念する。
そんなこんなで、俺は約二年後の高校進学も幼馴染みと一緒だということが決まった。
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