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if番外編 ハーレムを築けなかったら2

2.なんだかしっくりくる相手  大噛学園は、アルファが子供を産んでもらうオメガを探すために創られた場所だ。アルファはそこで嫁候補の集りである”群れ“つくる。  普通オメガというものは、オメガだけにわかるアルファのフェロモンに引き寄せられるらしい。だけどどうやら俺は、そのフェロモンが他のアルファよりも薄いみたいだ。  それは幼馴染みからの指摘で発覚した。 「ねえきみ。これ、落としたよ」  すれ違いざまに落とし物をしたオメガに声をかけて、手渡す。  オメガの子は落としたことに気づいてなかったようで、恐縮したようにぺこりと頭を下げるとお礼を口にした。 「えっ。あれ? すみません。どうもありがとうございます」  そうして元毅のもとへ戻ってきた俺は、なぜかとても可哀想なものを見るような目を向けられる。 「なに?」 「千耀……お前さ、前から薄々そうなんじゃないかとは思ってたけど、もしかしてフェロモンが薄いんじゃないのか?」 「へ?」 「あの子お前がアルファだって気づいてなかったよな。今のやりとり、もろベータに対するそれだったじゃん」 「そうだっけ?」 「そうだよ!」  首を傾げていると、焦れったそうに口調を強めて肯定される。  元毅曰く、今のがアルファという認識だったら「えっ!? 申し訳ありません、わざわざありがとうございます!」と真っ赤になって挙動不審で対応される場面だという。  さらに相手が積極的なオメガだったら群れに入れて欲しいと迫られてもおかしくないんだとか……。  そんなバカみたいな話が本当にあるのかと、思わず半信半疑の目を向けると、真面目な顔で返される。 「三年αクラスの恋丞(れんじょう)(ほむら)先輩とか、そこらへん歩いてるだけでオメガがひょいひょい釣れるらしいぞ」 「……まじで? 歩いてるだけで?」 「うん。歩いてるだけで」  事実だと重たく頷かれて俺は呆然とした。  まじか。  学園に入学してひと月が経とうとしているけど、クラスで自分のオメガを持たないのは、もう俺だけだった。  クラスメイトであるアルファたちは特に苦戦するわけでもなく、自分の群れを大きくしていっている。  いったいどうやっているのか不思議でならなかったけど、そういうことだったのかと合点がいく。  フェロモンの薄いアルファなんて、致命的だ。オメガにアルファだと認識してもらえないと、おそらく恋愛対象にすら入らない。  それはまずいと危機感を覚えた。 「うーん。これまで千耀以外のアルファなんてそう関り合いにならなかったからわからなかったけど、お前って他のアルファに比べるとなんか地味……? だし、性格もアルファっぽくないよな」  それに加えてフェロモン激薄。とつけ加えられる。 「……」 「いや、ベータの中にいるときはさすがにアルファだってわかる。顔はまあまあ整ってるし、身体能力も頭もおれらとはできがちがうし。けど他のアルファに比べるとなんか別のもんに見えるっつーか、なんつーか」  オブラートに包もうとしているけど、要するに元毅は俺がアルファよりもベータに見えると言いたいんだろう。  そこがフェロモン以外の部分でもオメガにアルファだと認識されない原因かもと指摘されて、がくりと肩を落とした。 「まあ。フェロモンが薄いっていってもないわけじゃないんだし、相性も関係あるだろうから、そこまで落ちこまなくていいんじゃないか?」  すっかりへこんでいると、本当のこと言いすぎたと思ったのかフォローされる。しかし今の俺はそんなフォローじゃ立ち直れないくらいダメージを受けていた。 「もー……わかった、わかった。お前が卒業までに自分の群れつくれなかったらおれが嫁にいってやるから」  宥めるように頭をポンポンとしながら、元毅が俺に言い聞かせるようにそんなことを約束する。 「えっ。いいの?」 「……うん、まあ。お前んち金持ちだし」  ぱっと顔をあげて確認すると、三食昼寝つきならいいよと返された。金目当てかよと思わないこともなかったけど、相手は元毅だ。 「うん? けどお前ベータだし子供産めないよな」 「産めてたまるか。そこは諦めろ」  当たり前のことを聞くなとばかりに返されて、そこは仕方ないかと納得する。  よく考えてみると、元毅がオメガなら即行で口説いていたんじゃないかってくらいには俺は元毅のことがすきだ。  両親も、元毅が相手なら喜んでくれそうである。特に母さんは元毅が大のお気に入りだから。  問題は狩矢(かりや)家を継ぐ子供が必要だってことだけど、父親としては俺か同じアルファである妹のどちらかがつくればいいという考えのようだ。  元毅を嫁にもらうなら妹には申し訳ないけど、跡継ぎは妹に頼む他ないだろう。  俺には割りと厳しい妹だけど元毅には甘ちゃんだから、ふたりで頼めば了承してくれる――かもしれない。  子供のこと以外を考えたら、俺にとって元毅との結婚は驚くほどしっくりきた。なんというか、目から鱗が落ちたような気分。  結果俺は、幼馴染みがいるならオメガの嫁は必要ないなという結論に落ち着いた。  

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