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第5話 甘い誘惑

 五時間はあっという間に過ぎていった。移動時間を考えると実際には三時間くらいしか自由になれなかった。それでもぼくは幸せな気持ちでいっぱいだ。  午後二時台の電車は空いていて、ぼくと優輔は二人掛けのシートに並んで座ることができた。優輔はぼくを窓側に座らせてくれた。今日は特別寒いみたいで、天気は小雨から、いつしか粉雪に変わりつつあった。  車窓から流れ見る景色はどこまでも遠くに広がっていて、ぼくは今すぐにでも電車から降りて、広い世界へ羽ばたきたいと思った。 「帰りたくないなあ……」  ぼくは独りごちた。そりゃ帰りたくないよ。たった五時間の外出許可を取るだけでも、ぼくにとっては大変だった。  次に優輔とデートできるのはいつになるんだろう。面会だけじゃとても足りない。ぼくはもっと優輔との時間を過ごしたい。  世間一般の恋人たちは好きな時にデートして、好きな時にエッチもできるのに、何でぼくらはがんじがらめな世界で生きているんだろう。  ぼくらは自由になりたいのに。 「雪成……」  通路側に座る優輔がぼくの手をぎゅっと握る。 「逃げちゃおうか」 「……え?」 「このまま病院に戻らないで、雪成の行きたい所に全部行ってもいいし、ぼくの家に来て、そのままぼくと過ごしてもいいし……」  ぼくが言うのも何だけど、優輔も頭がおかしくなっちゃったのかな。 「そんなことできるわけないじゃん! ぼく入院中だよ。ぼくに何かあったら、全部優輔の責任になるんだからね!」 「そ、そうだよね。うん、わかってる……言ってみただけ」 「でも今のセリフ、昼ドラの駆け落ちするシーンとかでありそう。ちょっとドキドキしちゃった」 「ちょっとだけ? ぼくは今、雪成の隣で手を握っているだけでも心臓がはち切れそうだよ……」 「……もう、ぼくを困らせないでよ。ますます帰りたくなくなっちゃうじゃん」 「うん……ごめん。ごめんね、雪成……」 「大好きだよ、優輔」 「ぼくも大好き……」  その後ぼくらは電車から降りる時も、病院行きのシャトルバスを待つ間も、ずっと恋人繋ぎをしていた。  色違いのダウンジャケットを着て、お揃いのマフラーを巻いているぼくたちを、周りの人は変な目で見たが、ぼくらは気にしなかった。  ぼくと優輔。ふたりだけの世界。  シャトルバスを待つ間、雪はどんどん強くなっていった。ぼくが寒さに震えていると優輔が「ちょっと待ってて」と言い、自販機でお汁粉を買ってきた。ぼくは思わず噴き出した。 「お汁粉って! 優輔ジジ臭いよ! こういう時普通は缶コーヒーでしょ」 「雪成はコーヒー苦手だろう? ミルクコーヒーすら飲めないくせに」 「さ、砂糖入れれば飲めるもん!」  ぶつくさ文句を言ったが、何年かぶりに飲む自販機のお汁粉は何とも言えない味がした。

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