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第8話 赤い雪の真相

 ぼくはあの日の出来事をすべて鈴木さんに話し始めた。 「ぼくの双子の兄・氷室雪成がぼくの住んでいるマンションの三階から飛び降りた時、ぼくと優輔さんは近所のコンビニに買い出しに行っていて、ちょうど戻ってきたところでした。去年の年末。その日も今日みたいな雪が降っていました。ぼくらの両親が共に職場の忘年会で家を空けていたので、ぼくは雪成の面倒を一緒に看ようと優輔さんを呼んでいました。兄は去年の夏頃から大学内の人間関係のせいで鬱になって精神科にかかっていました。双極性障害のⅡ型だろうと診断がつき、ぼくらは互いの講義が被らない日はできる限り雪成のサポートをしていました。初期の頃はただ死にたいだとか消えたいとか、そういう希死念慮っていうのばかりだったのですが、次第に自傷行為が増えていって……」 「その時点で担当医は入院を勧めなかったの?」 「雪成が当時の主治医に話さなかったんだと思います。それに彼の自傷行為は……これはぼくの完全な嫉妬からそう思えただけなのですが、優輔さんに構ってほしかった部分が大きかったんだと思います。ふたりは素人から見ても共依存に陥っていました。そう、先ほどぼくは嫉妬と言いました。ぼくもずっと優輔さんのことが好きだったんです」 「……そうだったの」 「兄を自殺に追いこんだのはぼくのせいです。ぼくの醜い嫉妬が兄に伝わってしまったのです。きっかけはわかりません。ぼくと優輔さんが少しでも一緒にいると、兄は死んでやると喚いてぼくらを引き離しました。ぼくも……僕自身も、兄につられて病んでしまっていたと思います。ぼくらは双子ですから。だからぼくは言ってしまったのです。『兄さんなんか死んでしまえ』と」  それが忘れもしない、十二月二十七日の事件の発端だった。 「空気を読んだ優輔さんが足りないものを買いにコンビニに行くと言いました。ぼくら兄弟はふたりきりになって……居心地が悪くなって、ぼくも優輔さんの後を追うように出ていきました」  どうして雪成をひとりにしてしまったんだろう。ぼくは自分を何度も責めた。 「ぼくは、まさか飛び降りるだなんて、これっぽっちも思っていなかったんです。ぼくらの部屋は三階だし、飛び降りたとしても大事には至らないだろうとも。でも場所が悪かったんです。ぼくらのマンションのベランダ側には鉄柵が張り巡らされていました。ぼくらの目の前で飛び降りた雪成は、鉄柵に串刺しになりました。ぼくはすぐに救急車を呼びました。優輔さんは発狂していました。ただ『雪成! 雪成!』と叫ぶばかりで……。ぼくらの足元には雪が降り積もっていましたが、雪成の周りは赤い血で染まっていました。ぼくは電話で状況を伝えるので精一杯でした。優輔さんがいないと気づいたのは、救急隊員が雪成の死を確認した時でした。ぼくは優輔さんを探しました。嫌な予感は的中しました。優輔さんは実家の二階から兄と同じように身を投げました。兄の後を追おうとしたのです。優輔さんの両親は仕事で海外に行っていて……。優輔さんは自分の事をビビリだと、昔からそう言っていました。だから雪もクッションになったことも相まって命は助かったんです。ぼくは二台目の救急車を呼んで、それから兄の死の件で警察や、帰ってきた両親への説明でバタバタしていて、優輔さんの側にいられなかった……っ」 「それで身体的な外傷が治ってから、うちに転院したのね。羽鳥さんのご両親はこの事を?」 「電話をしましたがすぐに戻れないようで……だからぼくが優輔さんの面会に知人として行ったのです。まさか自分が『優輔』と呼ばれるなんて思ってもみませんでした」

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