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第3話

   微妙な空気が流れる男子更衣室。重い沈黙が落ちるなかで、ふいに更衣室の引き戸が開かれた。 「秋吉。何ちんたらしてるの、さっさと仕事に戻りなよ」 「浦ノ崎」  現れたのは浦ノ崎先輩。生徒会で副会長をしている彼はおそらく生徒会長である秋吉先輩を呼びにきたのだろう。  浦ノ崎先輩は不機嫌そうに秋吉先輩を睨んでいたけど、その目がふと僕に移されると驚いたように見開かれた。 「篠岡くんじゃない」 「こんにちは」 「しょんぼりしてどうしたの。秋吉に虐められてた? 可哀想に」  落ちこんでいる僕をみて、秋吉先輩に虐められていると思ったらしい。眉尻を下げてこちらに寄ってきた彼に肩を抱かれる。浦ノ崎先輩は意外とスキンシップが激しい。  いつも僕を甘やかしてくれる浦ノ崎先輩に僕はここぞとばかりに不満を吐露することにした。 「実は秋吉先輩におっぱいを出し惜しみされて……」 「おい」 「そうなの? 秋吉みたいにケチな男のことなんて篠岡くんが気にすることないよ」  やはり浦ノ崎先輩は僕の味方だった。それまで秋吉先輩からけちょんけちょんに貶されていた僕は少しだけ心強くなる。 「浦ノ崎……おまえ」  外野で凄んでいる秋吉先輩を気持ちがいいくらいに無視した浦ノ崎先輩は、カッターシャツの前を寛げると妖艶な笑みを浮かべ、さらけだした胸元に僕の頭を引き寄せる。 「僕のだったら篠岡くんの好きなようにしていいよ」  ぷくりと膨らんで誘惑してくるそれを見て僕は逡巡した。確かに浦ノ崎先輩のおっぱいもとても魅力的だと思うのだけど……。  横目でちらりと秋吉先輩を窺う。 「…………」  僕の一番は秋吉先輩のおっぱいなのだ。あんなに美しくて可憐な理想のおっぱいは、僕の周りには秋吉先輩しかいない。  そりゃあ浦ノ崎先輩のおっぱいも魅力的だけども! 「うう……」 「僕のじゃダメかな?」  哀しそうにうるんだ瞳で見つめられて、僕はまた唸り声をあげる。今の僕はフラれた片想いの相手のまえで別の美人に誘惑されている男のような、そんな気分だ。  ダメじゃない、ダメじゃないんだけど秋吉先輩のおっぱいの味を知ってしまった今となっては、秋吉先輩以外のおっぱいで満足できる自信がない。ということはやっぱりダメなのか? 「秋吉はああいう奴だからなかなか難しいよ。その気がない秋吉をいつまでも追っかけていても、仕方ないと思うな」    うんうん悩んでいる僕に引導を渡すように、浦ノ崎先輩が諭してくる。これに僕は、どうしたらいいのかわからなくなってしまった。  確かに秋吉先輩は望みが薄い。この二ヶ月のあいだもひたすら嫌がられて迷惑がられている。 「でも……」  僕にとって秋吉先輩のおっぱいはそうかんたんにあきらめられるようなおっぱいじゃない。他で代用できる程度なら拒否された時点であきらめている。  目の前の浦ノ崎先輩のおっぱいを見つめながら、僕は途方に暮れた。 「盗撮ものぞきも犯罪だってわかってるよね? あんまり行きすぎると僕も見逃してあげられないよ」 「……っ」  耳許で囁かれてびくりと肩が跳ねる。浦ノ崎先輩はすべてお見通しらしい。そこを突かれると痛い。 「口開けて、ね?」  浦ノ崎先輩の親指が僕の下唇をくいっと下に引いて口を開けさせると、秋吉先輩よりも少しだけ赤みがあって少しだけ大きめの浦ノ崎先輩の胸が押しつけられる。 「ん……」  僕はおずおずと口のなかの粒に舌を這わせた。浦ノ崎先輩の言うことももっともかもしれない。確かに最近の僕の行動は少し行きすぎていた。これ以上エスカレートする前に秋吉先輩のことは……あきらめるべきなのかもしれない。  おっぱいを忘れるためには新しいおっぱい。感傷に浸りながら僕は浦ノ崎先輩の尖りを舌の上でころころ転がす。 「ふふ、赤ちゃんみたい」  浦ノ崎先輩は微笑みながら僕の髪を指で梳く。そのまま手を滑らせて腰を撫ぜると、さらに下へと滑らせた。両手がお尻に触れる。 「ん……?」 「おい浦ノ崎!」  僕の尻たぶを両手でつかんで揉みはじめた浦ノ崎先輩に、それまで傍観していた秋吉先輩が声を荒げた。けれど浦ノ崎先輩はそんな彼を冷ややかに突き放す。 「秋吉は関係ないんだから黙っていてくれる?」 「!」  浦ノ崎先輩に言い負かされた秋吉先輩が、今度は僕をすごい形相で睨みつけてくる。 「篠岡!」 「はい?」 「そんなに見たいのなら今度特別に見せてやる。だから今すぐそいつから離れろ」 「おっぱい舐めてもいいですか?」 「…………いいからさっさとこっちにこい」 「やったぁ!」  あんなに拒否していたというのになぜかお許しをもらえて、僕は浦ノ崎先輩から離れて小躍りした。その勢いのまま秋吉先輩の胸に飛びこむ。  ただいま! 僕のおっぱいぃぃ! 「ちょっと秋吉邪魔しないでよ。せっかくいいところだったのに」 「いくらなんでもやりすぎだ、風紀に引き渡すぞ。だいたいおまえは俺を呼びにきたんじゃなかったのか」 「ああ、完全に忘れてた」 「まったく。すぐに行くから先に行っていろ」 「そんなこと言って秋吉、僕が出ていったら篠岡くんにいやらしいことするつもりなんだ! 自分ばっかずるいんじゃないの」 「バカをいうな。俺をおまえと一緒にするんじゃない。それと篠岡おまえは人が話しているときに勝手に胸をいじるな!」  秋吉先輩と浦ノ崎先輩がふたりだけで楽しそうに盛り上がっていて手持ちぶさただった僕は、秋吉先輩のつんと尖った乳首をつんつんと弄っていた。バチリと叩かれて仕方なく手をひっこめる。 「はーい」  名残惜しいけど明日また秋吉先輩のおっぱいを愛でられるならと、今日のところは我慢する。今日の僕はお利口なのだ。 「じゃあ篠岡くんまたね。秋吉のおっぱいに飽きたらいつでも待ってるから」 「早くいけ」  後ろ髪を引かれるように男子更衣室を出る浦ノ崎先輩を、ひらひらと手をふりながら笑顔で送り出す。浦ノ崎先輩は変わってるけど優しくていいひとだ。 「はあ……」  重々しくため息をつきながら、秋吉先輩が中途半端にしていた着替えを再開する。ちらちらしていた秋吉先輩のおっぱいがついに完全に隠されてしまい、僕のテンションはだだ下がりだ。 「秋吉先輩、秋吉先輩。明日は何時に会えますか?」 「…………俺がいつ明日と約束した?」 「え?」 「……」 「じゃあ今晩ですか?」  そんなに早く時間をもらえるとは思っていなくて僕は胸をときめかせたけど、秋吉先輩はなぜか力なく項垂れてしまった。 「――いや、なんだ。はぁ……もう明日で構わない。六時には終わるから、来たいならそれくらいの時間に生徒会室に来ればいい」  しかもなんだか投げやり? だ。まあ僕は約束をとりつけられたことに大満足していたから、細かいことは気にしないことにした。 「はい!」  おそらく奉仕作業あとで疲れているのだろう。このあとは生徒会の仕事だと言っていたし、秋吉先輩は働き者だと思った。  

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