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第7話

   つと暁生が腰をあげた。すべるように窓辺へと行って掃き出し窓を開け放つ。  ごう、と雪が螺旋を描いて吹き込んだ。カーテンがはためいて、ほっそりした肢体にまといつくさまは、怪物の(あぎと)に獲物が捕らわれたところを思わせた。  ──すでに飢えとも渇きとも無縁……。  意味深長な私語(ささめごと)が、禍々しく耳に甦る。空腹感に苛まれることはない云々を額面通りに受け取れば、まるで幽霊の科白。  喉仏が、ぐびりと上下した。では二十年ぶりの邂逅じたい、心霊現象の類いだとでも言いたいのか。  篠田は頭をひと振りして水割りを呷った。  皮膚が粟立つのは室温が急激に下がったせいだ。アルコールが、おかしな妄想を紡ぎ出すのだ。  だが、たてつづけにクシャミをする篠田にひきかえ、暁生は陽だまりに安らいでいるように淡く笑む。雪混じりの風に髪がなびいているにもかかわらず、だ。  俺は簒奪者(さんだつしゃ)だ、と不意に思う。我欲にとり憑かれて暁生を袖にしたばかりか、巣を乗っ取るカッコウの雛さながら、彼を追い払う形で家を捨てさせた。  暁生の人生のレールをねじ曲げた罪は重く、時効はない。  今宵、彼が訪ねてきたのはちょうどいい機会だ。いつぞやは、と謝罪することで長年のツケを払い、晴れやかな気持ちで新年を寿(ことほ)ぐ。  その線でいこう。篠田は口許をほころばせ、その一方で影が忍び寄ってくるように感じる。雪片が睫毛に絡むに任せている暁生には、本当に血肉が(そな)わっているのか……? 「俺は、オカルトは嫌いだ」 「では、悲惨な話は好きですか」  独り言を聞きつけて、暁生が悪戯っぽく瞳をきらめかせた。そしてテレビを指し示す。  北陸地方で起きた列車の脱線事故の現場から、アナウンサーが詳細を伝える映像を。

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