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第3話

   朝、俺は女の怒鳴り声で目が覚めた。 「ちょっと律! どういうこと!?」 「……あ?」  眠くて仕方ない目をこじ開ける。  ワンルームなので、ベッドから玄関まで丸見えだ。その玄関に立ち今にも血管が切れそうなくらいに怒ってるのは、今の俺の彼女で同じ大学のミスキャンパスだった。 「うるさいな……朝っぱらから。何怒って……って、え?」  はっきりと覚醒した俺は胸に頬を擦り付けてスヤスヤと眠っている少年に気づいた。  一気に記憶が戻る。  そう、こいつは俺が助けた雪うさぎで。いや、それよりどうしてこいつがここで寝ているんだ?   彼女の怒鳴り声をBGMに俺は布団の方を見た。当たり前だがそこはもぬけの殻。 「聞いてんの!? 律! 随分かわいい子みたいで、ずいぶーん深い関係みたいだけど、どういうことか説明して」  どうやら彼女は雪うさぎが女の子だと誤解しているようだ。  目を吊り上げて怒る彼女を見ているうちになんだかもう全てがめんどくさくなって来た。  雪うさぎが男だと弁解したとしても、それはそれでややこしいことになりそうな気もするし。  俺が何も言わないでいると、彼女はハイヒールでドアを蹴った。 「そんなガキっぽい子と二股かけるなんて馬鹿にしないでよね」 そして捨て台詞を残して去って行った。 「あーあ」  ミスキャンパス、落とすのに結構時間かけたんだけどな。  そう思いながらも、俺の胸には未練はなかった。  結局彼女のことそんなに好きではなかったってことか。  俺という人間はいつもそうだ。  今まで付き合った彼女たちも決まって最後には『律って冷たい』と言って去っていった。  俺ってそんなに冷たい人間なのかな。  どこか情緒に欠けているのだろうか。  軽い自己嫌悪に陥ったとき、雪うさぎが言ってくれた言葉が蘇る。 『本当に優しいんだね』  一点の曇りもない瞳であんなふうに言われたのは初めてだった。 「それにしても」  その言葉を言ってくれた本人は、ちょっとした修羅場があったというのに、まだぐっすり眠ってる。 「おい、雪うさぎ、起きろ。朝だぞ」  上半身を起こした俺の腰の辺りを抱き枕にして眠ってる少年の頬を軽くつねった。 うわ。柔らかい。  雪うさぎの赤ちゃん肌の心地よさについ必要以上に触ってしまう。 「うーん……律……? 今、何時……?」 「もう十時過ぎだよ。ちょっと離れてくれないか。俺大学行かなきゃ。講義に遅れちまう」  俺がそう返した途端、雪うさぎはぱっちりと大きな目を開け、慌てて起き上がった。 「ごめん。早く起きて朝ごはんの支度するつもりだったのに」 「別にいいけど。それよりおまえ、いつの間に俺のベッドに入って来たんだ? ちゃんと布団敷いてやっただろ」 「だって俺たち結婚したての夫婦なのに、別々に眠るなんて寂しいもん。律のベッド広いのにさ」  結婚……夫婦……。  雪うさぎが投げる言葉に俺が辟易してるうちに、彼はベッドを抜け出して、キッチンへ立った。

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