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第7話

 大人しくしていると言ったくせに大学での雪は完全な臨戦態勢だった。  俺の傍に寄って来る女という女に対して敵意をむき出しにする。  俺が注意をすると唇をとがらせてぼやく。 「だって、みんな、律の彼女になりたいって思ってるんだもん。俺、浮気は許さないって言ったでしょ」 「あのな、俺はそんなにモテないよ」 「モテるよ。だって律はすごくかっこいいし、すごく優しいから、モテないはずない」 「それはおまえの買いかぶりすぎ。とにかく俺はこれから講義を受けて来るから、おまえは食堂ででも待ってろ」 「一緒に行っちゃダメ?」 「ダメ」  少し怖い顔をしてきっぱりと言い切ると、雪はしおしおと萎れて食堂の方へと歩いて行った。  講義が終わり、食堂へ行くと、雪が数人の男に絡まれていた。 「君、かわいいねー。何学部? なんて名前?」 「ずっと長堂律にくっついてたけど、あいつはやめた方がいいよ。ミスキャンパスの彼女がいるし。君、二股かけられてるんだよ。三股、四股もありえるな。あいつ、超チャラいから」 「黙ってないでさー、名前くらい教えてよ」  俺は走っていくと、雪の前に立ちふさがる。 「こいつに近づくな」  鋭く睨みつけると、男たちは舌打ちをしてその場から離れて行った。 「大丈夫か? 雪、一人にして悪かった。あいつらに何かされなかったか?」 「何もされてない。話しかけられただけ。それより、律」  見上げて来る憂い顔。 「ん?」 「あの人たちの言ってたこと本当? 律、彼女いるの? 朝も香水の匂いしてたし」  俺は雪の柔らかな髪をくしゃくしゃと乱して溜息をついた。 「いたけど、別れたよ……っていうか、おまえと一緒に寝ているとこ見られて別れたんだけどね」 「じゃ、まだその人のこと好きなんだ?」  睨みつけるようなきついまなざしで聞いて来る。 「もう好きじゃないっていうか、最初から好きだったかどうかさえ、分からないってのが正直なとこかな」 「律……」 「さっきの奴らの言い分にも正しいところはあるな。俺、チャラいし。その上冷たい。雪の言うような優しい男じゃないよ」  俺が自嘲的に笑って見せると、雪は俺の腕にしがみついて来た。 「そんなことない。律は優しい。俺のこと日の当たらないところに移してくれたし、今も助けてくれた。そんな顔しないで」  必死な顔で必死な声で言ってくれるのがうれしい。  ……うれしいが、ハッと気づく。  ここは学生が多く集まっている食堂で、俺たちは注目の的になっている。 「分かったから、雪。少し離れてくれ」  雪は素直に俺の腕から体を離したが、代わりに手を繋いで欲しいとねだって来た。  取り合えず視線浴びまくりの食堂から出て、そっと手を出すと、雪はその手を握りしめて来る。  俺は少し迷ってから雪の手を握り返した。  すると雪はすごくうれしそうに笑って言葉を紡ぐ。 「律の手って冷たくて気持ちいい。ね、手の冷たい人って心が暖かいって言うから、やっぱり律は優しいんだよ。俺の手はぬくいでしょ? 雪うさぎのくせにさ。……だからね、本当に冷たいのは俺の方」  そして繋いだ手を大きく前後に振った。

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