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第8話
次の日から雪は大学については来なかった。
俺より少しだけ早く起き朝ごはんの用意をし、「いってらっしゃい」なんて甘ったるく俺を見送り、俺が大学から帰って来たときには晩ごはんの用意ができている。
思えば不思議だった。こうして雪が部屋に居つくことを許している自分が。
だって普通に考えれば雪うさぎが恩返しに来たなんて絶対に信じられないはずだ。
雪は家出少年だという可能性の方が余程大きい。でも、俺の本能の部分が雪は本当に雪うさぎだと告げて来る。
「……しょ? 律。聞いてる?」
「え? あ。ごめん。何。ちょっとボーッとしてた」
「だから俺って良妻賢母でしょって聞いたんだけど」
晩ごはんのテーブルを挟んで雪が瞳を輝かせてる。
「その言葉自体に無理がある。特に賢母の方は絶対無理だろ」
「そうだけど。……俺、律との子供欲しいなー」
「ぐっ……」
雪がしみじみと言うので、俺はごはんが喉につまりかけ、慌ててお茶で流し込んだ。
「変なこと言うなよ、一瞬心臓止まったぞ。大体男同士で子供なんてできるはずな」
「そんなことくらい分かってるよ。でも律との愛の結晶が欲しいんだから仕方ないだろ」
雪はプウッと頬を膨らませて拗ねてしまい、食べ終わった自分の茶碗をさっさと片付けている。
キッチンに立ち、少し乱暴に洗い物を始めた律のお尻の辺りに俺は一瞬だけ視線を投げた。
一緒に暮らしだして一週間以上が経ち、雪がどうしてもとお願いしてくるのでおんなじベッドで眠っているが、誓って俺たちの間には何もない。
「律、早く食べちゃってよ。片付かないから」
まだ少し不機嫌なのか、珍しく雪が急かして来る。
「分かったよ」
俺は苦笑しながら味噌汁を飲み干した。
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