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第9話
雪に続いて風呂に入って出てくると、彼は先にベッドに入って雑誌を読んでいた。
「寒いから早く来てよ、律ー」
聞きようによっては際どい言葉を吐いて、雪が甘えて来る。もう機嫌はすっかり直ったようだ。
「おまえ、寒さには強いんじゃなかったっけ?」
「いつの間にか寒がりになっちゃったんだよ」
「雪うさぎが寒がりなんてありえねー」
俺が隣に入ると、雪は体を擦り付けて来る。
正直、雪ほどの美形で好みの顔にここまでピタリと抱きつかれるとクルものがあるのも事実で。
いつしか俺は頭の中で懸命に円周率や化学式を唱えて、下半身に熱が行かないように努力する羽目に陥っていた。
「ね、律。キスして」
俺が煩悩と戦ってるのに、雪はおねだりをして来る。
「……え?」
「俺たち夫婦なんだから、キスくらいしてくれてもいいでしょ」
「いや。男同士だし夫婦なんかじゃないし」
「俺は律のお嫁さんだから、やっぱり夫婦でしょ」
雪はぱっと見た目儚げで大人しそうだが、実際は言い出したら聞かないところがある。このときもそうだった。
強いまなざしで俺のことを見つめてきて目を逸らそうとしない。
キスをしなければ、この視線から逃れさせてもらうことはできそうにない。
「……目、閉じろよ。そんなに見られてたら、やりにくい」
俺が言うと雪は素直に目を閉じた。
唇を薄っすらと開き、閉じたまつ毛が微かに震えているのがなんともエロい。
そっと触れるだけ。それで雪も満足してくれるだろう。
自分に言い聞かし、俺は雪の唇にそっとキスをした。
……が。
触れるだけのはずだったのに、止まらなくなってしまったのは俺の方だった。
雪の唇があまりにも柔らかくて気持ちが良かったから。
何度も啄み、吸い付き、時には甘く噛むことを繰り返す。
「んっ……り、つ……」
雪が俺の背中に手を回し、パジャマをぎゅっと握りしめているのが分かる。
「律……待っ……」
雪の唇が開かれたときを逃さずに俺は舌を差し入れた。
「んっ……ふ……」
雪の唇の端から、二人分の唾液が滴りシーツを濡らして行く。それでも俺はキスを止められなくて、雪の口内を心行くまで味わい尽くしてからようやく顔を離した。
雪は色白の頬を上気させ、大きな瞳は激しいキスの余韻に潤んでいる。
濡れた唇を拭う手は微かに震えていて、怖がらせてしまったかという罪悪感と襲いかかってしまいたい欲望がせめぎ合う。
俺はなんとか欲望を抑えつけ、雪もその夜は体を摺り寄せては来なかった。
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