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第10話

 次の朝、前夜のキスを雪は引き摺っているかと思ったが、全くのいつも通りの無邪気さが戻って来ていた。  いや、それどころか。 「じゃ行ってきます」  いつもは俺がこう言うと雪が鞄を渡してくれるのだが、この朝は少し違って。 「行ってらっしゃい、律」  いつもの朝と同じ言葉に添えられたのは軽く触れるキス。 「雪、おまえ……」 「何?」  平然としたふうを装っているが色白の顔が真っ赤だ。  正直、可愛すぎる。 「こんなことしたら、襲うぞ」 「いいよ。だって俺たち夫婦だもん」  真っ赤なまま言うと俺に鞄を押し付け、自分は部屋の奥へと走って行ってしまった。    それから俺と雪の間で行ってらっしゃいとお帰りなさいとお休みのキスをする習慣がついてしまった。  特にお休みのキスは触れるだけでは済まず、深くなってしまうことも度々だ。  参ったな、と思う。これじゃ本当に新婚の夫婦みたいじゃないか。  このままじゃ遅かれ早かれ俺は雪を抱いてしまうだろう。  もうはっきりと分かる。俺は雪が好きだ。  好みの顔だということから始まり、漠然とした好意の感情を経て、今は存在自体が大切で愛おしい。  でも。  俺はまだ雪が消えなくて済む答えを見つけていない。  どれだけ雪に訊ねても、「律が答えを見つけてくれないことには意味がない」と返されてしまう。  大学への行き帰りに必ず例の雪うさぎの所へと立ち寄り、答えを模索しているのだが、手掛かりすらつかめない。  一体どうすればいいんだろう……?  雪が消えてしまうなんて耐えられない。  

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