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第2話

救急隊員が来るまでに、拘束されていた男から最低限の証拠を採取すると、次にCSI全員でこの部屋の証拠採取に取り掛かった。 「ねえ、ちょっとこれ見て」 カリーの声にホレイショとデルコがカリーの元に行く。 そこにはステンレスのカートに、綺麗に磨き上げられた医療機器と思われる道具が整頓されズラっと並んでいた。 そして下の段にはどう見ても大人の玩具としか思えない物が、やはり綺麗に整頓されズラっと並んでいる。 デルコが顔を顰めて言う。 「スキンがある。 彼はレイプされていたんだな」 「そうだ。 今も機械でレイプされているだろう。 だから取り外しは医者に任せることにした」 ホレイショの怒りに満ちた声に、部屋の中が一瞬静まる。 その静寂を破ったのはナタリアだ。 「これを見て。 この椅子の側にモニターがある。 このモニターはあのステージを映している監視カメラの映像を映してる」 ホレイショがモニターを見る。 そこには今もステージ周りで作業をしている警察官達を映している。 ホレイショが首を傾げる。 「つまりあの監視カメラはここに拘束されていた男に見せていたということか。 だが何の為に…?」 「それに、この椅子からは血液反応は出なかった。 この椅子に拘束されてた彼は、ステージで血を抜かれていた被害者達とは犯人の目的が違うのよ」 「レイプはされている。 だが彼は大切にされていた、だろ?」 ホレイショの言葉にナタリアが頷く。 「この部屋を見ただけでも分かる。 彼はこの犯人に大切にされていた。 レイプを除いて」 デルコが「でもなあ…」と腕を組んで考え込む。 ホレイショが「何でもいい。考えを聞かせてくれ」と促すと、デルコが話し出す。 「彼をレイプしたいだけなら、こんな部屋を作るくらいだから、拉致して好きなだけレイプすればいい。 だけどそれじゃあステージに吊るされて血を抜かれていた被害者は何の目的で集められたんだ? そしてその映像を彼に見せる必要があるでしょうか?」 「彼が怯えるのを楽しんでいたとか? 次はお前だぞなんて言って脅して」 「カリー、それは違う」 「なぜ?」 カリーの大きなグリーンの瞳がホレイショに向けられる。 「私が脈を確認し、救急隊員を呼んだ時、彼が言った。 好きなだけやれ、だけど弟の血抜きを止めてからだ、と」 「それじゃあ、あの吊るされていた男は、ここで拘束されていた男の弟ですか?」とデルコが訊く。 「分からん。 まずトリップに裏を取らせてから君達に言うつもりだった」 ホレイショがそこまで言った時、ホレイショのスマホが鳴った。 ホレイショが即電話に出る。 「どうした? そうか…それは残念だ。 では後で」 ホレイショは電話を切ると、デルコとカリーとウルフとナタリアを見渡して言った。 「ここから脱走した女性が死んだ。 出血性ショックで不整脈を起こし、心不全で亡くなった。 彼女は病院に着くと直ぐに集中治療室に入り、トリップは何も聞き出せ無かったそうだ。 他の被害者達もいつ死んでもおかしくない状態だ。 いいか。 アレックスの解剖の結果を待っている時間は無い。 ここの二つの隠し部屋にある証拠が全てだ。 徹底的に証拠を集めろ」 四人は「はい!」と言うと、持ち場に散らばって行った。 そして作業を終えてマイアミデイド署に戻り、ミーティングルームに集まったCSIの面々は浮かない顔をしていた。 「何か収穫のあった者はいるか?」 ホレイショの問いに、まずナタリアがやや早口に答える。 「赤い絨毯の部屋には被害者達の痕跡以外何も無かったわ。 冷蔵庫に2パックずつ備蓄されてた血液も被害者達の物でした。 それだけ。 加害者やあの部屋に出入りしていた人間の痕跡は、指紋や髪の毛どころか繊維一本見つからない。 徹底的に掃除されていた。 足跡はあるけど、あの毛足の長い赤絨毯のせいで不鮮明なものばかりで採取は無理だった」 「では視点を変えてみよう。 被害者の血の分布から分かることは?」 「そうね」と言って、カリーがパソコンのキーボードを叩くと、大きなパネルに赤い絨毯の部屋の見取り図に赤い印が広がる画像が映し出される。 「全ての椅子やテーブルに被害者達の血痕が見られるわ。 誰かがテーブルに被害者達から抜き取った血液を運んだのね。 でもさっきナタリアが言ったように、それしか証拠は出なかった。 椅子からもテーブルからもそこに被害者以外の人間が存在した痕跡がまるで無いの」 「そうか。 デルコはどうだ? 白い部屋の方には何かあったか?」 デルコが悔しそうに首を左右に振る。 「あの拘束されていた青年以外の痕跡は有りません。 ダブルベッドもシーツや枕カバーに至るまで新品でした。 ゴミ箱は空だし、ご丁寧にゴミ箱の内側まで掃除されてアルコール消毒までされています。 赤い絨毯の部屋と同じ。 あそこに出入りしていた被害者以外の人間の髪も指紋も糸くずさえ無い」 「ではレイプは拘束台で行われていた可能性が高いな。 それにもしダブルベッドでレイプをしたとしても、そいつは1回ずつ徹底的に掃除をし、シーツや枕カバーを新品に変えていたことになる」 「俺もそう思います。 極度の潔癖症なのかもしれません」 その時、ホレイショのスマホが鳴った。 「失礼」と言ってホレイショが電話に出る。 相手は刑事のトリップだ。 ホレイショは二言三言トリップと話しをすると、「直ぐに行く」と言って電話を切る。 「皆、私はこれから被害者達が運ばれた病院に行ってくる。 白い部屋で監禁されていた彼が目覚めた。 だが検査を拒み自殺を計ろうしている」 「えぇ!?」 四人の驚く声が上がる。 「そして理由は分からんが、ホレイショ・ケインを呼べと言っている。 では後で。 朗報を待っているぞ」 ホレイショはサングラスを掛けると、足早にミーティングルームから出て行った。 「ホレイショ!ここだ!」 トリップがドカドカと病院の受付に走って来る。 「トリップ、歩きながら話そう。 彼は何処だ?」 「屋上だ。 柵を乗り越えてしまっている」 そしてトリップがエレベーターのボタンを押す。 「柵を? この病院は転落防止用に高さ3メートルの金網に有刺鉄線まである。 どうやって越えた?」 「看護士によると、するすると登りだしたかと思ったら、もう柵の外に居たそうだ。 軍人かもしれん」 そこでやって来たエレベーターに二人が乗る。 「ホレイショ、勿論彼が柵の外にいるのは大問題たが、もっと問題がある」 「何だ?」 「彼が余りに検査を嫌がるので、点滴で鎮静剤を打たれている。 三分の一程度しか体内に入っていないが、もし鎮静剤が効いて眠ってしまったら…」 「真っ逆さまだな」 「そうなんだ! 彼は検査が嫌で逃げ出しただけで、死ぬつもりなんかじゃなく、普通の精神状態じゃないだけかもしれない…あれだけの目に遭ったのだから。 それと消防が彼が落ちた時に備えて、反動吸収用のクッションマットを地上にセットしている」 「トリップ、この病院は15階建てだ」 「そりゃあそうだが…。 無いよりマシだろう」 エレベーターが最上階に到着する。 二人がエレベーターから下りる。 ホレイショがサングラスを取る。 「では助けよう」 ホレイショが一言言って、屋上に続くドアを警備している警官達の前を通り過ぎた。

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