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第4話
「デルコ、薬物は被害者の誰からも出なかったんだな」
ホレイショが手錠が並べてある部屋に入ってくる。
「チーフ!
彼の具合いはどうですか?」
「まあそれなりだ。
それよりも薬物だ。
何も出なかったんだという事は、犯人はどうやって被害者の自由を奪ったんだ?
女性はまだ分かる。
だが吊られていた男性は190以上はある大男だ。
彼の自由を奪うのは並大抵の事ではない。
それにアレックスによれば、全員争った形跡も無い。
薬物を使うのが自然だろう」
「ええ、そうなんです。
ただ、データベースに無い成分が検出されています」
デルコが差し出す検査結果の用紙を、ホレイショが受け取ると首を傾げる。
「何だこれは…?
強いて言うなら爬虫類の神経毒に近いが…」
「そうなんです。
FBIにも当たりましたが、こんな成分は初めて見たそうです。
それに薬品の化合物では絶対に無いと、FBIの検査官も断言しました。
チーフの言う通り、自然界の物です。
だけど動物から昆虫、花まで調べましたがこんな成分はありませんでした」
「そうか」
その時、ホレイショのスマホが鳴った。
「どうした、トリップ」
『クラブ・ジョーのオーナーに話を聞いた。
オーナーは男二人。
だが表向きはこの二人の共同経営だが、何ともう3年も前にクラブ・ジョーは売られていた。
今オーナーを名乗っている男二人は、お騒がせイケメンセレブというお飾りで、本物のオーナーに毎月給料を現金で貰っている。
それとオフィスに入れるのは、本物のオーナーが送り込んだ会計士だけだ。
給料もこの会計士が手渡ししている。
ちなみにお飾りのオーナー達は本物のオーナーと面識が無い。
全て会計士と弁護士が仕切っているそうだ。
顧問弁護士はマイアミでも一流の弁護士だ。
今しがた会って来たが奴さんはシロだな。
規定の手続きをきちんと踏んでいるし、令状さえ出れば全面的に協力すると言っている。
しかし会計士は行方不明だ』
「なるほど。
会計士を探し出すのが一番手っ取り早いな。
国税庁にも当たってくれ。
それでなぜ今クラブ・ジョーは改装中なんだ?」
『お飾りオーナー達は知らないとさ。
半年前に突然改装をすると言われたが、お飾りの二人は会計士が給料はそのまま支払うというので深く考えなかったそうだ。
それとクラブ・ジョーの会員には、年会費は改装という事で休業中の差額も支払ったそうだ。
それで丸く収まったってとこだな』
「分かった。
新事実が出たら連絡をくれ」
『了解!』
ホレイショがジャケットにスマホをしまうと、また電話の着信音が鳴った。
ホレイショは画面を見ると素早く電話に出る。
「先生、何か?」
『警部補、血を抜かれていた女性の被害者が一人目を覚ましました。
彼女は幸い使い回しの針を使われなかったおかげで、敗血症を起こしていなかったので他の被害者よりも回復が早かった。
聴取できます』
「分かりました。
直ぐに伺います」
ホレイショは電話を切ると「カリー、被害女性の一人が目覚めた。キッドを持って同行してくれ」と言ってサングラスを掛け歩き出した。
被害者の女性は19才でサンドラ・ジャクソンと名乗った。
サンドラはID番号もスラスラと答えた。
カリーがその場でラップトップで調べると、サンドラの言うことは本当だった。
サンドラはマイアミに住む親戚の家を訪ねる為にマイアミに来たという。
カリーがやさしく尋ねる。
「ねえサンドラ。
あなたはどうやってあの部屋に連れて行かれたのかしら?」
サンドラは涙を浮かべた瞳でチラチラとカリーを見ながら答える。
「私、マイアミにある親戚の家に遊びに来たの。
大学も休みだったし、親戚に同じ年の女の子がいて親友だから…。
私の家はユタ州だけど、毎日のようにテレビ電話やスカイプで話してるの。
それで…私ついこの前失恋しちゃって…すっごく落ち込んでたら、その子がうちに遊びに来ればって誘ってくれて。
おじさんもおばさんも大歓迎よって言ってくれたし、両親もその子の家なら良いって許可してくれた。
でもその前にどうしてもやっておかなきゃならないゼミの論文の草稿があって。
教授はメールで良いって言ってくれたし、とにかく早く街を出たかったから、その子の家に着く予定より3日前にマイアミに来て、モーテルに泊まって草稿を終わらせようとしたの」
「モーテルの名前は?」
「スリーカード。
モーテルに到着してフロントで手続きを済ませて、部屋のキーを受け取って部屋に入ろうとした時だった…首筋に何かが刺さったの…!」
わっと泣き出すサンドラに、カリーがサイドテーブルに置いてあったティッシュをサンドラの膝にそっと置く。
「ゆっくりでいいのよ。
今、話せる事だけ話して」
サンドラがティッシュで涙を拭きながらまた話し出す。
「チクッとした瞬間、首筋に手を当てたわ。
針みたいな感じだった。
でも廊下にも駐車場にも誰もいなかった!
本当よ!」
カリーが微笑む。
「勿論、信じるわ」
「ありがとう…。
そしたら急に眠くなって、気付いたらあの部屋で吊られて…首に点滴の針が刺さってた…」
窓際に居たホレイショがカリーの横に立つ。
「サンドラ。
君が吊られていた時、他にも吊られていた人はいたかな?」
サンドラが唇に指を当て、考えるような仕草をする。
そしてハッとしたようにホレイショを見上げる。
「女の子がたぶん…7人いたわ…!
私とそんなに年は変わらないと思う!
みんなガリガリに痩せて…ボロボロだった。
でも…」
「でも?」
「男の人が一人いた。
その人はなんて言うか…他の子と扱いが違った…。
それにガリガリって程じゃ無かった…。
まるでベネチアのカーニバルみたいな仮面を被って防毒マスクをした男がやって来て、こまめに何かをされてた…。
そうしたら…次々と三人の女の子が死んだの…!
すると今度は私の隣りに吊られてたいた女の子が、仮面の男がいない間、何か首を動かしてた…。
私は何が何だか分からなかった。
そしてその子の点滴の針が抜けて、首から血が吹き出した…。
直ぐに仮面の男がやって来て、二人は酷く揉めてた…。
そして仮面の男が居なくなった途端、その子が手錠から手を抜いて走って逃げていった…。
それからあなた達が来て助けてくれた…」
またわっと泣き出すサンドラの肩にホレイショがやさしく手を置く。
そして「サンドラ、とても参考になったありがとう。ゆっくり休んで。」と穏やかにと言う。
するとサンドラが「あっ」と言って、ホレイショの腕を掴む。
「待って!
思い出した!
男の人が仮面の男に言ってたわ!
兄貴はどこだとか…ディーンに手を出すなとか…!」
「兄貴…ディーン…か。
ありがとう、サンドラ。
良く思い出してくれた」
サンドラが涙を流しながらも、強い視線でホレイショを見る。
「犯人は…!?
逮捕してくれるのよね!?」
「約束する。
奴は必ず逮捕する」
ホレイショは毅然と答えると、「カリー。後は頼む」と言い残しサングラスを掛け病室から出て行った。
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