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第6話

「んまーい!」 ホレイショが宅配を頼んだレストランから届いたディーンの注文を、ディーンはモグモグと口いっぱい頬張る。 ホレイショは赤ワインを飲みながら、そんなディーンを物珍しそうに見つつマイペースで食べている。 ディーンは薬の注入が終わるまでアルコールは禁止なので、炭酸飲料を飲んでいる。 ホレイショはフフっと笑うと時々ナプキンを手に「じっとしていろ」と言ってディーンの口の周りを拭いてやる。 ディーンは口周りの汚れも気にせず食べ続けるからだ。 ホレイショはディーンが嫌がるかと思ったが、ディーンはモグモグ食べながら「サンキュ!」と言って、また食べることに集中する。 ディーンはこの家に来てまずシャワーを浴びたいと言って、長時間客間のバスルームに籠っていた。 そして料理が届いたのでホレイショが客間をノックすると、ホレイショが買ってやった白地に白い刺繍が入ったシャツとジーンズを着たディーンが扉を開けた。 監禁されていた時のディーンはダークブロンドの髪を、前髪を上げてセットしていたが、もう食事をして寝るだけだからか、前髪が下りていた。 ホレイショは思わずディーンに見蕩れた。 あの監禁部屋でディーンを見つけた時から美しい容姿をしていると思っていたが、目の前のディーンはその何十倍も美しい。 完璧な二重に少し丸みを帯びたアーモンド型のヘイゼルグリーンの瞳、そしてまるでつけまつ毛のような長いまつ毛、鼻筋も鼻の形も完璧なら、唇の形も完璧で、少しぽってりしているのがまた魅力的だ。 それにマイアミではあまり見かけない真っ白な肌が、風呂上がりのせいか薄いピンク色に上気している。 そして下ろした前髪が、少年のような初々しさを醸し出している。 ホレイショはこれ程の美貌を持つ男に生まれて初めて出会った。 そしてもしかしたらハリウッドの関係者で、ストーカーに拉致されたのかも知れないと瞬時に考えた。 「ホレイショ、何?」 ホレイショはポーカーフェイスで「食事が来たぞ。冷めないうちに食べよう」と答える。 ディーンは「やりー!」と言うと部屋を出て来る。 そして「早く~!」とホレイショの背中を押す。 ホレイショは「分かった分かった」と笑って答えると、ディーンの手を掴む。 ディーンはあの監禁部屋で長期間足を開かされていたせいか、足の付け根に不自然な癖のようなものがつき、時折歩くのが覚束無い時があるのだ。 ディーンはホレイショの手を握り、ゆっくり階段を下りる。 繋いだ手と手。 ホレイショは胸の高鳴りを自ら打ち消した。 食事が終わるとディーンが「俺、後片付けする」と言い出し、ホレイショが止める間も無く椅子を立ち、宅配で届いた物以外で使用した食器をシンクに運ぶ。 ホレイショがその食器を半ば奪い取る。 ディーンは膨れっ面をして「何だよ?」と言う。 ホレイショが「うちは食洗機を使ってるんだ。使い方を説明する」と言うとディーンはワクワク顔で「マジ!?やべぇ!俺、食洗機なんて使ったことねーよ!」とはしゃぎ出す。 そしてディーンが食器を食洗機にかけ、その間に二人でテーブルを片付ける。 片付けが終わるとディーンがソファにうつ伏せに転がってクッションに顔を埋めた。 「ディーン?」 ホレイショがディーンの髪をやさしく撫でる。 「これから…薬…入れるんだろ?」 さっきまではしゃいで食事や後片付けをしていたとは思えない、か細い声。 「そうだ。 君の主治医は今夜君が薬を注入できたら、自分で治療しても良いと条件を出してきた。 だが俺がやるから心配は要らない。 何か不安があるのか?」 「……だって…みっともねぇじゃん…」 ディーンの震える声。 ホレイショが「ディーン、俺を見ろ」と穏やかに言うと、ディーンがチラリとホレイショを見た。 ホレイショの予想通り、ディーンの瞳は潤んでいた。 「なあ、ディーン。 病気の治療にみっともない事なんてひとつも無いんだ。 分かるな?」 「……でも…」 「治療に関して『でも』は禁句だ。 恥ずかしいのは分かる。 だがディーンだって目の前に治療が必要な人間が倒れていて、その人間が『みっともないから治療は嫌だ』と言ったらどうする?」 「殴る」 思いもよらない答えにホレイショが声を上げて笑う。 「それは最良の説得法とは言えないな。 だが良い案だ。 じゃあこれからはディーンが『みっともないから治療は嫌だ』と言ったら殴ることにしよう」 「な、なんだよっ! ホレイショの馬鹿!」 「ディーンが言ったんだぞ? さあ、寝室に行こう」 ホレイショが手を差し出す。 「……ん」 ディーンが頬をほんのり赤くして、ホレイショの手を握った。 ディーンは今、Tシャツ一枚になって、シーツの上にうつ伏せになり尻を高く上げている。 「ディーン。 これから肛門鏡を使う。 肛門鏡もクスコも蒸しタオルで温めてきたからそこまで冷たく無いと思うが、我慢しろ。 それからペニスの先に塗った麻酔がシーツに付かないように、尻を下げるな」 「……分かってる! 早くやれよ!」 ホレイショが左手で肛門鏡を使い肛門をくぱっと開く。 ディーンの口から「…あっ…」と声が漏れる。 ホレイショはすぐさま薬の注入用の注射器の先端を肛門に挿入し、注射器の中身のジェルを注入する。 ディーンが「…つ、つめたっ…」と小さく呟く。 「ジェルは温める訳にはいかないからな。 要冷蔵なんだ」 ホレイショがそう言いながら、小指の先程のパラフィン紙でできた栓を肛門にする。 ディーンが小さく呻く。 「ディーン。 仰向けになれ」 ホレイショの声に、ディーンが身体をくるりと反転させる。 「ディーン、少し触るぞ?」 「……うん」 ホレイショのすらりとした指がディーンのペニスの亀頭に触れる。 「どうだ? 麻酔は効いているか?」 「……うん。 何も感じねぇ」 「よし。 じゃあディーンは根元を支えてペニスを起こしておけ。 直ぐに終わる」 「……分かった」 ディーンが小刻みに震える手でペニスの根元を掴む。 ホレイショはすぐさまクスコを持つと尿道口を開口する。 そして肛門にしたように、素早く薬の注入用の注射器の先端を尿道口に挿入し、中身のジェルを注入する。 ディーンの身体がブルッと震える。 それからホレイショは注射器を抜きクスコを外しパラフィン紙で亀頭をくるっと巻くと、プラスチックの長さが調整出来るバンドをカリに締める。 「ほら終わった。 大したこと無かっただろう? もう下着を履いていいぞ」 「…う、うん…」 ディーンがまた頬をほんのり赤く染めながら、寝たままささっと下着を履く。 「よし、今から1時間は仰向けに寝たまま動くなよ。 それからペニスは必ず上向きにしておくこと。 パラフィン紙は捨てて、プラスチックのバンドは取っておけ」 「わ、分かってるって! ホレイショの馬鹿っ!」 「なぜ俺が馬鹿なんだ?」 ホレイショがふざけてディーンの顔に顔を近付ける。 ディーンがカーッと首まで真っ赤になり、ぷいっと横を向くと「掛け布団かけろよ!あとテレビのリモコン!」と不貞腐れたように言う。 「はいはい王子様」 ホレイショがディーンに肩まで掛け布団を掛けてやり、ディーンの顔の前にリモコンを出すと、ディーンはリモコンをパッと掴んで掛け布団を頭から被る。 「ディーン、照明のリモコンと今日買ったスマホはベッドサイドにあるからな」 「分かった!もういいから!」 「おやすみ、ディーン」 ホレイショが客間の扉をそっと閉める。 すると部屋の中から「おやすみっ!色々ありがとなっ!」とくぐもった声がした。 ホレイショは吹き出したくなるのを我慢しながら、階段を降りて行った。 そして午前0時になった。 ベッドボードを背に神経毒の本を読んでいたホレイショは、本を閉じるとベッドサイドテーブルに置いた。 そして照明を消し、ベッドに潜るとコンコンと小さなノックの音がした。 ホレイショが素早く起き上がり扉を開けると、ディーンが枕を抱えて立っていた。 ホレイショが「ディーン、どうした?」と訊くと、ディーンはまるで迷子の子供が親を見つけたような顔をした。 「…あの…あのさ…俺、ソファでいいからこの部屋で寝ちゃ駄目?」 ディーンの枕を持つ手は、相当力が入っているのだろう指先が白くなっていた。 ホレイショが微笑む。 「勿論、構わない。 但しディーンがベッドに寝るなら、な」 「そんなの悪ぃよ! 俺がソファで寝る!」 ホレイショはディーンを部屋の中に入れ、扉を閉めてると、「じゃあ一緒にベッドに寝るか?幸い俺のベッドもダブルだ」と言って笑った。 勿論、ホレイショはジョークのつもりだった。 だがディーンは照れ臭そうに「うん」と言った。

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