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第9話

ホレイショから家宅捜索令状を受け取ると、弁護士のフィリップ・テイラーがホッと息を吐く。 「ケイン警部補、助かりましたよ。 こんなに早く来て頂けるなんて! 私は令状が無ければ、話したくても話せない立場なんです。 ご存知でしょうが秘匿特権がありますからね。 話の後でオフィスをCSIで徹底的に捜査して下さい」 フィリップは一流弁護士らしく高価なスーツを身に着けているが、困りきった顔をしている。 だがオフィスは何事も無かったかのように綺麗だ。 「それで? テイラーさん。 最初から話して下さい」 ホレイショに促されてテイラーが話し出す。 「まず昨夜…正確には今朝の3時過ぎにこのビルの警備会社から連絡がありました。 警備システムがハッキングされて、全ての電源が落ちたと。 ですがこのビルには予備電源があり、30秒以上電源が落ちると予備電源に切り替わるのです。 予備電源は1週間持ちます。 その間に警備会社が故障などを修理する手順なんです。 だから私はなぜそんな連絡が私に来るのか不思議だった。 ところが警備会社が言うには、ハッカーは念入りに予備電源が作動しないようにしてしまっている、復旧させるのに3時間はかかるという事でした。 それで私はオフィスに向かった。 紛失している物が無いか確認して欲しいと言われたし、私もそのつもりでしたから。 ドアは開いていましたが、部屋は荒らされていなかった。 しかし私はピンときた。 私の顧客は大物ばかりですが、今問題を…こんな停電騒ぎまで起こすような大きな問題を抱えているのはクラブ・ジョーのオーナーしかいないと。 私の推測は的中しました。 無くなっていたのはクラブ・ジョーのオーナーの書類だけでした。 パソコンのデータもクラブ・ジョーのオーナーの記録は全て消えていた。 私が持ち歩いているラップトップからもです。 まるで最初からそんな顧客は存在しなかったかのように。 ですがこのハッカーというか泥棒は、私を甘く見ていたらしい」 「と、仰ると?」 「この壁です」 テイラーが大きな観葉植物を動かし、白い壁に片手で持てる大きさの細長いブルーライトを照らす。 するとブルーのキーパッドと長方形の形がが浮き出た。 ホレイショが頷く。 「成程。 赤外線で反応するキーと言う事ですか。 そして静脈認証ですね」 「その通りです。 私は顧客のリストを引き出しに入れて、鍵を複数着けるだけでは満足しません。 予備のリストを必ず作成し、この秘密のドアにしまうのです。 そして静脈認証も生きている私の手でなければ開きません。 このドアは秘書も知りません」 「では早速ドアを開けてオーナーとの契約書を見せて貰えますか?」 トリップがそう言うとフィリップは「ええ、勿論!」と言って、青く浮き出たキーボードに数字を打ち込もうとする。 そこに「ちょっと待って下さい」とホレイショの声が響く。 「テイラーさん。 あなたは最初から捜査に協力的だった。 だがこの秘密のドアはあなたの生命線とも呼べる貴重なドアだ。 これを我々に明かすという事は、裁判でもドアの存在を証言するという可能性が出てきます。 あなたが予備の書類を作成している事を顧客全員が知っているんですか?」 フィリップはぐっと詰まり、言葉が出ない。 「テイラーさん。 このドアを我々に知られる事を覚悟しなければならない出来事があったんじゃないんですか? 全てを話してくれなければ、あなたを助けられない」 「…そ、それは…」 「テイラーさん」 ホレイショの青い瞳がフィリップを射抜く。 フィリップが額に手を当てると、顔をひとなでした。 そして諦めたように口を開いた。 「…ええ、警部補の仰る通りです。 実は今朝、銀行が開いて直ぐに私の口座がある支店の支店長から電話があったんです。 多額の送金があったが、無事に口座に振り込まれたと。 しかもその口座は家族用の口座なんです。 支店長もそれを分かっていたから、わざわざ電話をくれたんだと思います」 「振込額は?」 「100万ドル」 トリップが「100万ドル!?誰からですか?」と声を上げる。 「…クラブ・ジョーのオーナーからです。 私は頭が真っ白になった。 なぜなら振り込まれたのが家族用の口座だったからです。 あのオーナーが私の家族用の口座番号を知っている筈は無いし、それよりも犯罪の容疑者から振り込まれた口座の金は1セントも下ろせない。 もし金を使ってしまったら、私も家族も犯罪に巻き込まれてしまう。 私はオーナーの脅しだと考えました。 警察に協力するなと言う」 「だが、テイラーさんは脅しに屈しなかった」 ホレイショの凄みのある低い声がする。 そしてホレイショはサングラスを手にし微笑んだ。 「あなたは正しいことを選択した。 そしてあなたは一流の弁護士だ。 この事態を乗り切る術を知っている」 「ケイン警部補…」 フィリップが深く頷く。 「ではオーナーの書類を見せて下さい。 全てを」 ホレイショが自分のオフィスにいるとコンコンとノックの音がした。 顔を上げるとトリップが立っている。 「ちょっといいか?」 「ああ、勿論」 トリップがどかっとデスクを挟んでホレイショの前に座る。 「オーナーの契約書を見たか?」 「今も見ている」 「不振な点は?」 「無い」 契約書のファイルがデスクの上でトリップに向けられる。 「うちの署の法務のコンサルタントの弁護士にも見てもらったが、普通の契約書以外の何物でもないそうだ。 俺もそう思う。 収穫があるとすればオーナーの名前と住所が割れた。 スティーブン・マーシーだ。 見つけて出して欲しい。 会計士のティモシー・ローランも」 「分かった。 任せろ。 こっちはスザンヌの宿泊先で、デルコが変わった物を見つけた。 まだ詳細は分からんが」 「デルコから報告はあった。 まだ分析中らしいな。 ナタリアとウルフはテイラーの事務所で鑑識作業中だ」 そう言ってホレイショは立ち上がるとラックに掛けておいたジャケットを羽織る。 「何処かに行くのか?」と言ってトリップも立ち上がる。 「昼メシだ」 トリップがニヤッと笑う。 「ディーンによろしく」 ホレイショは小さく笑みを浮かべると、無言のままオフィスを出て行った。 ホレイショが玄関の鍵を開けるとドタドタと走ってくる足音がする。 「ホレイショ! お帰り!」 「やあ、ジニー。 良い匂いだな」 「ディーンの好物を色々聞き出したんだ! それで昼ごはんはホットドッグのチーズとチリビーンズ掛けにした! そのソースを煮込んでたから。 なあホレイショ、ディーンは凄いんだ!」 「何が?」 ホレイショがリビングに向かって歩きながら訊く。 「僕が階段の手摺りをダスターで拭いてたら、ディーンが『こうすりゃいいんだよ』って言ってダスターに座って滑り台みたいに一気に滑り下りたんだ! それも3回も!」 ホレイショがフフッと笑う。 「そりゃあ良い。 だが危険だ。 ジニーは真似するなよ」 「うん! 僕は手で拭くよ! ディーンにも危ないよって言ったんだけど…」 「ジニーは悪くない。 気にするな。 それでディーンは何処だ?」 「二階の寝室にいる。 もうすぐ薬の時間だって言って、急に元気が無くなっちゃったんだ」 「…そうか。 じゃあディーンに薬を飲ませてくるから、ジニーはディーンの昼食の準備をしてやってくれ。 ただディーンは1時間は安静にしていなくてはならないから、食べるのは1時間後だ」 「分かってる! 昨日のメールで読んだから! ホレイショは食べて行く?」 「時間があれば」 「了解!」 ホレイショはジニーの肩をポンと叩くと「ありがとう」と言って二階に向かった。 ホレイショがドアをノックすると、「開いてる」というくぐもった声がした。 「俺だ。調子はどうだ?」と言ってホレイショが部屋に入ると、ディーンは頭からすっぽり掛け布団を被っていた。 「それで隠れているつもりか?」 ホレイショがゆっくりと掛け布団を捲る。 するとディーンがホレイショに背を向け、横を向いて丸まっていた。 「…ディーン」 ホレイショがそっと後ろからディーンを抱きしめる。 「どうした? 午前中は元気だったみたいじゃないか」 「…う、うん…」 ディーンの伏せた長い睫毛から涙が一粒落ちるのが見える。 そんなに苦しかったのか、とホレイショは思う。 …恐怖と苦痛に苛まれ、あの部屋に何日も何日も繋がれていた… 「ディーン、もう終わったんだ。 俺が必ずディーンを守る」 「…ホレイショ…!」 ディーンがホレイショの腕の中でくるりと振り返り、ホレイショに抱きつく。 そしてハッとした顔をすると手を離す。 「どうした?」 「…ごめん。 スーツが皺になる」 「皺が何だ?」 ホレイショがぎゅっとディーンを抱きしめる。 「ホレイショ…キスして…」 ディーンの囁き。 ホレイショはディーンを抱きしめる手を緩めると、ディーンに唇を重ねる。 角度を変え、触れるだけのキスは続く。 「…ん…ふ…ぁ…」 ディーンがキスの合間に息を吸う。 だがホレイショのキスは止まらない。 そしてホレイショの手がディーンの下着にするりと入る。 ホレイショがディーンの唇を解放すると、ディーンの耳元で「濡れてる」と囁いて耳朶を軽く噛む。 ディーンの頬が赤く染まる。 「…だって…ホレイショのキス…気持ち良いから…」 「ディーンはキスが好きだからな」 「ち、違っ…ああっ…!」 ホレイショのディーンから溢れる蜜で濡れた指がディーンの茎を上下する。 「出してしまえ、ディーン」 ホレイショはそう言うとディーンの雄を下着から取り出すと、本格的に扱き出す。 「…あ、ん…だって…これから…く、薬…」 「出して入れる。 問題無い」 「…は…ぁ…ああっ…明るい…恥ずかし…っ…!」 ホレイショの指が慎重に溢れる蜜を広げる。 ディーンは怖がっている様子は無い。 それどころか「…ああんッ…先っぽいい…っ…して…して…」と強請るように腰を揺らす。 「ディーンはかわいいな。 そんなに気持ちいいか?」 ホレイショの指が亀頭からカリを強く扱く。 「…あーっ…だめぇ…ッ!」 ホレイショがディーンの唇にキスを落とす。 「駄目?本当に?」 「ホレイショの…馬鹿ッ…いいっ…気持ちいいからぁ…」 ホレイショがフフっと笑ってディーンの雄を手で激しく愛撫する。 ディーンの身体がビクビクと震える。 「…ああっ…出るっ…ホレイショッ…!」 「ここにいる。 出せ、ディーン」 「…イくっ…アアッ…!」 ディーン自身から白濁が散る。 目を閉じてハアハアと息をしているディーンをそのままに、ホレイショはディーンの下着を脱がせ、お湯で絞ったタオルでディーンの白濁がかかった所をさっと拭いてやり、臀部の場所にバスタオルを敷いてやる。 そして睫毛をしっとりと濡らして、瞳を閉じているディーンの亀頭に麻酔用の塗り薬を塗って「薬を入れよう。うつ伏せになって腰を上げて」とやさしく言うと、ディーンはノロノロとだが言われた通りにする。 そして後ろと前の薬の注入を終えると、ディーンはウトウトとし出した。 ホレイショが「ディーン、少し寝ろ。スマホを1時間後に鳴るように設定しておいた。起きたらジニーの昼食を食べて」と囁くと、ディーンはコクリと頷き「…ホレイショ…」と小さく呟く。 ホレイショがディーンのおでこにキスをして「夕食までに帰ってくる。おやすみ、ディーン」と言うと、ディーンは安心したようにスヤスヤと寝息をたて出した。 ホレイショは静かに部屋を後にした。 ホレイショがCSIのフロアに戻ると、エレベーターを降りた所でカリーに出会った。 カリーは美しい微笑みを浮かべて「丁度良かった。チーフに見せたい物があるの」と言った。 そして「あら、スーツどうかした?今朝着ていたのに似てるけど違う物ね」と悪戯っぽく笑う。 「昼に一度自宅に戻ったのでね。ジニーの昼メシが美味すぎて零した」とホレイショがポーカーフェイスで答える。 カリーがパッと笑顔になる。 「ジニー! 暫く会って無いわ。 彼は元気?」 「ああ。 それで見せたい物とは、デルコとカリーがモーテルで見つけた物か?」 「そうよ。 分析が終わったの。 分析室に行きましょ」 そうして二人は歩き出した。

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