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第12話
ホレイショ達CSIメンバーが現場に着くと、病院は大騒ぎになっていた。
駐車場を埋め尽くす病人と医療従事者達。
そして消防署員と爆弾処理班、バイオハザード対策専用防護服に身を包んだ者達。
救急車の後方に座り、目を洗浄してもらってるトリップにホレイショが「大丈夫か?」と静かに話し掛ける。
救急士が「埃を洗浄しました。今、炎症は起きていないようですが、落ち着いたら必ず眼科に行って下さい。気道にも炎症はありませんが、眼科のついでに検査をしてもらって下さいね」と言って立ち去る。
トリップは救急士に「ありがとう」と言うと、「やられたよ、注意してたんだかな」と相当悔しそうだ。
ホレイショは頷くと「トリップ、最初から話してくれ」と言った。
トリップの話はこうだった。
まず吊られていた大男に事情聴取と退院の許可が出た。
すると大男はまず電話を掛けたいと言い出した。
そこで医師が滅菌室にある固定電話を使用させた。
滅菌室は全てガラス張りだが、部屋の入口で警備している制服警官は部屋の中に入れない為、何を話していたかは分からなかったが大男の電話は短かった。
そこで大男の事情聴取の許可が出たので、トリップと制服警官一人が滅菌された状態になり、滅菌室に入った。
勿論、銃の持ち込みは許可されない。
大男はトリップが名前を訊くと『サム・ゴードン』と答えた。
マイアミにはバカンスに来ていると言い、免許証の番号と社会保障番号も答えたが、トリップがガラス越しに外で待機している制服警官にラップトップで検索させたところ、これもサンドラと同じく何も出て来なかった。
そしてサンドラの時のように、首に痛みを感じて目が覚めたら腕を吊られていたと話した。
犯人と何か話したか?と訊くと、答えは「何も覚えていない」とだけしか言わない。
ただ一つ、「兄と一緒にマイアミに来たんですけど兄はどこですか?」と質問してきた。
そこでトリップはお兄さんのお名前は?と聞き返した。
すると『ディーン・ゴードン』と答えた。
だがディーンの免許証の番号や社会保障番号までは覚えていないと言い、「兄はどこですか?」と繰り返す。
その時、壁のガラスがコンコンと叩かれたので、トリップは入口を見た。
すると髭を生やして頭を後ろに撫で付けた年配のスーツ姿の男性と、赤毛でロングヘアのカジュアルな服装の若い女性が制服警官の前に立っていた。
トリップは頷いた。
身元確認をしろという意味だ。
トリップが『サム・ゴードン』に、あれは誰だと訊くと、『サム・ゴードン』は知り合いで迎えに来てもらったと答えると、それ以上トリップが何を訊いても答えず、「兄はどこですか?」と繰り返すだけだった。
その内『サム・ゴードン』は苛立ち出した。
「兄貴はどこだ!?」とトリップに食ってかかって来た。
その時、滅菌された状態になった入口にいたスーツの男性と赤毛の女性が滅菌室に入って来た。
「その後は一瞬だったよ」とトリップが悔しそうに言う。
赤毛の女性が紫色のボールのような物を『サム・ゴードン』に向かって投げた。
それをキャッチした『サム・ゴードン』が床にそれを叩き付けた。
小さな破裂音の後、部屋はその瞬間煙に包まれた。
トリップと制服警官は兎に角『サム・ゴードン』を捕まえようとしたが視界が利かない。
そして廊下を見ると、廊下も煙だらけだった。
「それで俺は署に応援要請をし、お前に電話した。
そして滅菌室の警備に当たっていた五人の制服警官と一緒に、滅菌室の被害者を助けることになった。
彼女らをベッドごと病院から連れ出した。
勿論、点滴や付けられていた心電図などの機器も全てだ。
看護士の案内で貨物用エレベーターから裏口に出た。
そうしたらツギハギだらけのオンボロの車が駐車場から道路を走って行くのがチラッと見えた。
ナンバーや車種は分からなかったが、特徴を伝えて州外に出すなと緊急配備をした。
そこに滅菌室の担当医師が来てくれて看護士と一緒に患者に着いていてくれると言うので、俺は制服警官に警備を任せ、預けていた銃を受け取り病室に戻った。
そしたら滅菌室の内と外は凄い匂いと黄色っぽい煙と塵が充満していた」
ホレイショが首を傾げる。
「トリップ、『凄い匂い』とは?」
「なんて言うか…卵の腐ったような目に染みるような…何とも言えない臭い匂いだな。
それに床に骨みたいな物も散乱していた。
それで消防士が毒物処理班を呼んだ。
だかなあ…」
ホレイショが病院を見つめ、言う。
「火が無い、だろ?」
「そうなんだ!
『燃えていない』のに、あの紫色のボールみたいな物は確かに『爆発』した!
俺の目の前でな!」
その時、爆弾処理班が「警部補!この建物はクリアです!」と大声で言い、続けて毒物処理班も防護服の上半身脱ぎ、「警部補!毒物は有りません!クリアです!」と大声で言った。
ホレイショも大声で「了解だ」と答えると、振り返る。
「トリップ、スーツの男と赤毛の女に対応した警官に話を聞きたい。
カリー、デルコ、ウルフ、ナタリア、どんな証拠も見逃すな。
空気もだ。
全て採取しろ」
ホレイショの言葉に、カリー達四人はキットを持って足早に病院に入って行く。
トリップも「こっちだ」と言って足早に歩き出した。
その制服警官はまず「怪しいと思ったんです」と言って話し出した。
「髭のある年配の男は大男の親代わりだと言いました。
赤毛の女は友達だと。
それでIDを見せて下さいと言うと、二人はIDを見せました。
IDから検索したところ、年配の男はボビー・サーストン、赤毛の女はチャーリー・フーバーという名前で、仕事はサーストンの方は自動車修理工場を経営していて、フーバーの方はフリーのコンピューター技術者でした。
それで指紋用スキャンをして下さいと言ったら、サーストンがあからさまに嫌な顔をした。
そして指紋を照合してどうするんだと怒り出した。
フーバーもIDを確認してこれ以上何するの!?と言って不愉快そうでした。
私は犯人はコンピューターに精通していて、被害者だけで無く、被害者の関係者の情報にも細工がされている可能性があるので、指紋からもあなた方が犯罪に関わりが無いと証明できないと滅菌室には入れない、他の被害者のご家族でさえも、この部屋に入る度にこの手順を踏んでいるんですと答えると、渋々指紋をスキャンしました。
二人共犯罪歴はありませんでした。
ただ荷物検査をした時、サーストンの荷物は被害者の私服だけだったんですが、フーバーの荷物の中に、紫色で赤い刺繍が入った口を金色の紐で縛ってある、女性の拳ほどの大きさの巾着袋のような物が二個ありました。
それは何だと訊くとフーバーはポブリだと答えました。
一つはサムのお見舞いで一つは自分の物だと。
そして二人は滅菌室に入って行きました。
それから直ぐに破裂音が二度して、何も見えなくなり、トリップ巡査部長の命令に従いました」
「そのポプリの匂いを嗅いだか?」
ホレイショに訊かれて制服警官は直ぐに「いいえ」と答える。
「では質問を変えよう。
そのポプリが入っていたバッグから異臭はしなかったか?」
「いいえ。
ただ、ポプリと言う割には無臭でした」
「そうか。
それで君が二人を怪しいと思った要因は何だ?」
「それは…何と言うか…二人のデータは嘘では無いと確認出来ましたが、完璧過ぎるんです。
目の前の二人の印象とズレている感じがしたんです。
証拠はありませんが」
ホレイショはフッと笑うと「君は優秀だ。被害者の警備に戻ってくれ」と言うと、「トリップ、医者に診てもらったら戻って来い」と付け加え、サングラスをかけると病院に向かって歩き出した。
「デルコ、酷い現場だったわね。
あなたランチどうした?」
指紋分析ラボに入って来るカリーに向かってデルコが軽く笑う。
「食えなかった。
チョコバーでもあの臭いが蘇ってさ」
「ホント!
早くシャワー浴びたい!
それであのポプリの袋と口を縛っていた紐から指紋出た?」
デルコが残念そうに首を横に振る。
「紫色の袋は粉々で、残った部分で一番大きい物でも紐で縛ったと思える上の部分が小指の先程だけ。
指紋らしきものは出たが、指紋とは呼べないただの模様だよ」
「紐からはどう?」
「紐は細かくよれられていて、更にそれを編んでいた。
DNAではこちらもヒット無し。
但し染色体はXX。
女性だ。
それ以上は無理だな」
カリーがクスッと笑う。
「だけどあなたはウサギの骨から指紋を見付けた。
知ってるのよ。
クイズでもするつもり?」
デルコもハハッと笑う。
「そう。
ナタリアのDNA鑑定によると、あの床に散乱していた骨はウサギの物だった。
人差し指の指紋がバッチリ撮れたよ。
でもヒット無し」
「そうなのね…」
「それから制服警官が『サム・ゴードン』の着替えを見たと言っただろ?
それで思い出したと連絡をくれたんだ。
まるで軍用品の払い下げのようなジャケットやパンツが入ってたと。
だから現役軍人から退役軍人まで検索に掛けた。
でもヒット無し!」
カリーが目を見開く。
「ちょっと待って!
『サム・ゴードン』はマイアミに観光に来たのよね!?
それなのに軍の払い下げのジャケットやパンツなんて着るかしら?」
「それに『サム・ゴードン』の肌は白い。
チャーリー・ハーバーに至っては蝋のように真っ白な肌だったってさ。
ボビー・サーストンも日焼けの跡は全くなかったそうだ。
マイアミ観光が目的でマイアミに来たんじゃ無さそうだ」
「ウルフとナタリアから床の痕跡と空気の分析聞いた?」
デルコがファイルを手にし「ウルフが持って来た時、君に見せようと預かってたんだ」と言ってカリーにファイルを手渡す。
カリーがファイルを中身を見て「何なの…」と呟く。
「床に落ちていた物は、塩、ウサギの骨を粉末状に粉砕されていた物と、ウサギの足の一部と思われる4本の骨に、ウサギの血と数種類の薬草と物質不明の鉱物。
鉱物以外全て乾燥してから、鉱物を含めウサギの骨同様粉砕されていた。
空気も同様って…紫色の巾着袋は破裂したのよね?
それなのに破裂を引き起こす起爆装置の欠片や煤も出なかったの?」
デルコが重々しく頷く。
「そうなんだ。
あの巾着袋に科学物質や起爆に使われる機器は入っていない。
破裂したのもおかしいけど、あの規模の破裂にしては巾着袋が小さすぎる。
それにそんなに細かく粉末状にされた物を、紐で結ぶのもおかしい。
どうやったって零れる。
それでチーフがあの巾着袋がどうやって起爆したのか爆弾処理班とかなり調べたらしいけど答えは出なかった」
カリーが分析結果を見ながら「塩と薬草とウサギの血と骨と不明の鉱物で作られた爆弾…これはただ事じゃないわ」と厳しい声で言った。
「ああ、そうだな。
必ず『サム・ゴードン』を見つけ出して逮捕しよう。
罪状はいくらでもある」
カリーとデルコは目線を合わせると、決心するように頷いた。
テレビのリモコンが豪華なペルシャ絨毯に叩きつけられる。
「なんてこと…!
なんてことをしたの、サム!
いいえヘラジカサムだけじゃない!
あの馬鹿ども!」
そうしてロウィーナは様々な『物』が入ったボール皿に手をかざし、まじないを唱えると、姿を消し、地獄の王の間へと飛んで行った。
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