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第15話
ディーンはホレイショがシャワーを終えると食事の用意をした。
ディーンが得意顔で「このミネストローネ、俺が作ったんだぜ」と言ってスープ皿をテーブルに置く。
ディーンによればジニーと二人で今夜はホレイショはきっと物凄く疲れているからと献立を考えて、野菜を沢山食べさせようとジニーにアドバイスされてミネストローネを考えついたらしい。
その後に続く肉料理やサラダも、ホレイショの身体にやさしく染み込んでいった。
そして食後に片付けを始めるディーンにホレイショが手伝うと言うと、ディーンは足の具合が良いからホレイショは座ってワインの残りを飲んでろと言い返された。
それからディーンは薬の注入があるからサッとシャワーを浴びると言って、その通り短時間で戻って来た。
ホレイショも寝る準備をして、ディーンに前後の薬の注入を終えた。
ただいつもと違っていたことは、ホレイショがディーンに腕枕をしてやったことだ。
ディーンが動かせる上半身を使ってホレイショに擦り寄る。
ホレイショはそんなディーンの額にキスをして「夕食、美味しかった。ありがとう」と言う。
するとディーンが照れ臭そうに「薬の注入が終わったらさ…海に行ってみたい」とポツリと言った。
「海?」とホレイショが聞き返すと、ディーンはホレイショのパジャマをぎゅっと掴んで「うん」と答えて話し出す。
「昼間…ホレイショのニュースを観て…すげぇ心配で…落ち込んだ。
そしたらジニーがホレイショは絶対大丈夫だって励ましてくれて、楽しいことを考えようよって言ってくれて…二人で何が良いかなあって話してて…。
そしたらジニーがディーンはマイアミの海に行った?って訊いてきた。
俺は記憶が無いから分からないけど、多分行ってないって答えた。
そしたらジニーがあと二日でお薬が終わるんでしょ?病院のお医者さんに海に行ってもいいか訊けばって言ってくれて…」
「ディーンは海に行きたいのか?」
ディーンがへへっとまた照れ臭そうに笑って答える。
「俺なんかが海でバカンスって柄じゃねーの分かってるけど…行きたい…。
ホレイショとジニーと俺の三人で、ちっちゃい傘が刺さったカクテル飲んで…バカ話してさ…。
熱い砂浜を歩いて…海に入って…きっと冷たくて気持ち良い…」
ディーンの声が段々と小さくなってゆく。
ホレイショがやさしくディーンの髪を梳く。
「ディーン。
俺なんかって何だ?
ディーンならさぞかしビーチ映えするだろう。
マイアミの美女達の視線を釘付けだ。
そうなったら俺とジニーはボディーガードだな」
「…なあホレイショ」
「何だ?」
「キスして」
直ぐにホレイショがディーンの唇に触れるだけのキスを落とす。
ディーンが呂律の回らない口調で「…ホレイショ…海で…うみ…」と小さな小さな声で言う。
ホレイショがまた唇に唇を重ねると囁く。
「ディーン、無理するな。
海には絶対に連れて行く。
今は寝ろ」
「……ん……」
ディーンが眠りに落ちる。
ベッドサイドの灯りを受けて眠るディーンは美しく、あどけない。
その寝顔を見つめていたら、ホレイショは何故だか無性に泣きたくなった。
『マイアミデイド署の赤毛の警部補』と聞けば、マフィアのボスも悪徳弁護士も次の手を考える。
悲惨な事件、到底人間の仕業とは思えない事件を何百件と見てきた。
自分の利害の為に保身に走り、法の目をかいくぐり無罪を勝ち取る犯罪者達も。
腸が煮えくり返る思い。
そしてそれを止められなかった自分を心底情けないと思うこと。
だが泣きたいと思った事は無い。
ホレイショの闘志に火をつけるだけだ。
そして本当に被害者を悼むには、犯人を逮捕し刑務所にぶち込む事だと信念を貫いてきた。
泣いている暇など無い。
そんな自分が正体不明の男の寝顔だけで泣けてしまいそうだ。
ディーンの姿形だけでは無い、ホレイショとディーンを繋ぐ美しい何かが、ホレイショの胸を震わせる。
美しく、儚い、何かが。
翌朝ホレイショはディーンに「ホレイショおはよー!」と頬にキスされて起こされた。
その直後に目覚ましのアラームが鳴る。
ディーンはバスローブ姿だが、見たところシャワーを浴びた後では無さそうだ。
ホレイショはアラームを止めると、「おはよう、ディーン。早いな。どうした?」と言いながら起き上がる。
ディーンはニカッと笑うと「シャワー一緒に浴びよ!」と言ってホレイショの腕を掴む。
ホレイショはそんなことだろうと察しがついたいたので、「はいはいワガママ王子様」と答えると、「やった!」と言ってニコニコしているディーンに手を引かれるままシャワールームに向かう。
二人は裸になりホレイショがシャワーのコックを捻ると、ディーンがホレイショに抱きついてくる。
二人にシャワーが降り注ぐ。
ディーンが「ホレイショ…キス…」と言って瞳を閉じる。
ホレイショがディーンの唇にチュッとリップ音を響かせキスをする。
するとディーンがゆっくりと瞳を開けて「…もっと…もっとしたい…」と上目遣いでホレイショを見る。
「ディーン…お誘いは嬉しいが俺はこれから仕事だ」
するとディーンがプーっと膨れる。
「何だよ、ホレイショのケチ!
昨日何にもしなかった癖に!
キスぐらいいいだろ!」
ホレイショが思わず笑う。
「ディーンは昨日俺が何もしなかったのが不満なのか?」
「そ、そんなんじゃねぇよっ!
もういいっ!」
口ではそんな事を言いながら、ディーンはホレイショに抱きついたまま離れない。
ホレイショがディーンの耳朶を軽く噛むと耳元で囁く。
「ディーン。
俺はディーンにキスをしたら止まらない。
分かってるだろ?」
ディーンが少しだけホレイショから身体を離し、美しいヘイゼルグリーンの瞳でホレイショを見つめ、呟く。
「……でもホレイショ前に出して入れるのは問題無いって言った…。
ホレイショにキスされたい…いっぱい…」
その瞳は潤み、色香が溢れ出ている。
ホレイショは「分かった」と短く言うと、ディーンの唇を塞いだ。
ホレイショの舌がディーンの歯列をなぞり、内頬をザラリと舐める。
たったそれだけでディーンの舌がホレイショの舌に絡み付いてくる。
だが直ぐにホレイショに主導権を握られ、ディーンは「…んん…ふ…んっ…」と苦しそうに吐息を漏らし出す。
それでもディーンはホレイショから逃げようとしない。
ホレイショも激しいキスを続ける。
その内、ディーンがホレイショに抱きつくと言うより、ぎゅっとしがみついて腰を揺らし出す。
ホレイショがキスを続けながら、ディーンの背骨を人差し指で下から上へとなぞる。
ディーンの身体がビクビクと震え、ディーンの勃ち上がった雄がホレイショの雄に擦り付けられる。
ホレイショがゆっくりとキスを解く。
ディーンはとろんとした目をして、唇の端からどちらのものとも知れない唾液を垂らしている。
その唾液をホレイショが舐め取る。
「…ホレイショ…」
ディーンの甘ったるい声。
「ディーン、今度はディーンからキスしてみろ」
「…うん…」
ディーンは啄むようなキスをしながら、もどかしいように尻を揺らしホレイショの雄に雄を擦り続けている。
するとディーンが突然ホレイショから唇を離し、「……ホレイショの馬鹿っ…ホレイショだって勃ってんじゃん…!」と瞳に涙を浮かべて乱れた息の中、ホレイショに訴える。
ホレイショがニヤッと笑う。
「ディーンはキスがして欲しかったんだろ?」
「……分かってる癖に…!ホレイショの馬鹿ぁ…!」
その時、ホレイショがディーンの雄をぐっと掴んだ。
「…アアッ…!」
ディーンが仰け反る。
「ディーン、俺にしっかり掴まってろ」
ホレイショはそれだけで言うと、ディーンの雄と自分自身を同時に扱き出す。
「…はっ…ああ…いいっ…ホレイショ…!」
ディーンの雄からは蜜が溢れ、ホレイショの手を濡らす。
そしてホレイショはディーンの蜜に濡れた手で、自分自身とディーンの雄のカリをゴリゴリと擦り合わせる。
ぐちゅぐちゅとした卑猥な音がシャワールームに響く。
ディーンが「…アアッ…やあっ…ダメ…ッ…!ダメぇ…ッ…!」と叫ぶ。
「ディーンはカリが弱いからな。
しっかり掴まってろ」
ホレイショの興奮を抑えた声がディーンを蕩かす。
ホレイショが二本のいきり立った肉棒を合わせ、巧みに愛撫する。
ディーンの身体に快感が走り抜ける。
「…ヒッ…!あッ、ああんっ…!出るッ…ホレイショ…!アアーッ…!」
「出せ」
そうしてホレイショがディーンを支えて、やさしく唇にキスを落とす。
次の瞬間、二人の白濁が互いを濡らした。
それからディーンはご機嫌で、前後の薬の注入もスムーズに終えると、ホレイショが『普通に』シャワーを浴び、仕事に行く準備を終えた頃には朝食を用意していた。
そしてホレイショが朝食を終えると、玄関でホレイショの頬にキスをして「行ってらっしゃい!」とちょっぴり眠たそうな輝くような笑顔でホレイショは送り出された。
ホレイショがマイアミデイド署のCSIのある階でエレベーターを降りると、トリップが笑顔で「よう、ホレイショ」と片手を上げる。
ホレイショも片手を上がると言った。
「その顔は何か掴んだな、トリップ」
「オフィスで話せるか?
ちょっと混み入っててな」
「ああ、勿論」
ホレイショのオフィスに入ると、トリップは落ち着かない様子で、立ったまま話し出した。
「病院で『サム・ゴードン』とその連れが、何かを破裂させただろう?」
ホレイショが「ああ」と言って頷く。
「それで俺がオンボロでツギハギだらけの車が駐車場から逃げるように去って行くのを見た。
その車の件なんだが…」
「見つかったのか?」
「昨夜、夜番の刑事の情報屋で車の解体屋をやってるヤツから、その刑事に情報が入った。
あのツギハギだらけの車に似た車が解体屋に運び込まれたという情報だ。
それで俺に報告が来た。
何でもその車の第一発見者の仕事は放置されている車…つまり廃車するのが面倒で置き去りにされた車を回収して、解体屋に持って行き、部品を売ってるんだそうだ。
廃車の回収屋だな。
まあ車が正常に走るなら、解体屋が引き取って、点検を済ませてから中古車販売店に売る。
解体屋だが修理屋でもあるからな。
で、その売り上げの何パーセントかを回収屋が貰うって仕組みだ。
その廃車の回収屋は、昨夜もいつものように廃車が無いか街をレッカー車で流していた。
だが街では思うような結果は得られず、エバグレースまで行ってみた。
5分程走ると、白っぽい車が止まっていて、帽子を被ってTシャツにジーンズを履いた髭面の年配の男と…これがちょっと信じられないんだが…襟元をぴっちり閉めてフードまで被った足元まである真っ黒なベンチコートを着た30代ぐらいの男が車を川に向かって押していた」
ホレイショの眉が寄る。
「ベンチコート?」
トリップが困ったようなに苦笑いを浮かべる。
「回収屋もマイアミでベンチコートなんてと思って印象に残ったらしい。
それで回収屋はチャンスだと思った。
エバグレースのたった5分しか走ってない場所で車を沈めようなんて、土地勘が無い上に訳アリに決まってる。
それに二人がマフィア絡みで無いのは見るからに明らかだ。
そこで回収屋が車から降りて声を掛けた。
『お困りですか?』ってな。
そしたら回収屋のレッカー車を見た二人は全てを察したらしい。
帽子の男が『この車を解体屋に持って行ってくれ』と言った。
キャッシュで500ドル支払うからと。
回収屋は勿論OKして車を引き上げた。
車はボンネットの1/3も川に浸かってなかったってさ。
それで回収屋は一応解体屋に持って行った。
見た目はオンボロだがエンジンも壊れていないし、転売出来ると思って。
そこで解体屋は、夜番の刑事から聞かされていた病院の破裂に加わった一味の車と特徴が一致していたので、刑事に連絡したってとこだ。
車は誰も手を付けないように言ってある。
ただナンバープレートは外されている。
どうする?」
「どうするもこうするもない」
ホレイショが立ち上がり、サングラスを掛ける。
「証拠を採取する」
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