19 / 41
第18話
ディーンは何も答えず、焦れったそうにまたホレイショにキスをする。
ディーンは「…ホレイショ…ホレイショ…」とホレイショの名前しか知らないように、ホレイショを呼びながら啄むようなキスを繰り返す。
ディーン自身も緩く勃ち上がっていて、ホレイショの雄にゆらゆらと湯の中で擦り付けてくる。
そんなディーンは可憐で愛らしく、ホレイショの庇護欲を掻き立てる。
ホレイショはディーンの頭の後ろに手を回すと、ディーンの欲しがる激しいキスを与える。
ディーンは瞳を閉じてホレイショの激しいキスに身を任せている。
「…ンッ…ふぁ…あん…」
ディーンは時折苦しそうな吐息を漏らすが、ホレイショのキスに酔っているように、ホレイショからの激しいキスを受け止めている。
そしてホレイショがディーンから唇を離し、ディーンの濡れた唇を舐める。
「…ホレイショ…気持ち良い…」
ディーンがうっとりと呟く。
次の瞬間ホレイショがディーンの雄を掴む。
「…アアツ…!」
ディーンが仰け反る。
ホレイショが「ディーン…こんなに硬くして…お湯の中でもヌルヌルだ。本当にディーンはキスが好きだな」と囁くと、ディーンの雄をゆるゆると扱き出す。
「…ハッ…ああん…ホレイショ…!」
「ディーン、出せ。
我慢することは無い」
ホレイショがまた囁くと、ディーンが涙が零れ落ちそうに潤んだ瞳でホレイショを見ると、「…や…やだっ…ホ…ホレイショが、一緒…じゃなきゃ…やだ!」とたどたどしく言った。
ホレイショの胸が痛くなる。
目の前のディーンが愛おしくて。
ホレイショが「分かった。じゃあ反対側のバスタブを掴んで後ろを向いて腰を上げて」と言うと、ディーンがノロノロと言われた通りにする。
ディーンの身体は泡で覆われていて、尻だけが泡から出ている。
「…最高の眺めだな」
ホレイショの感嘆の言葉もディーンには聞こえていないようで、ディーンは顔だけ振り返ると「ホレイショ…早く…」と涙声で訴える。
ホレイショがディーンの腰を掴む。
そしてディーンの尻にキスをした。
ディーンが意外そうにまた振り返る。
「ホレイショ…?」
「なあ、ディーン…」
ホレイショがチュッチュッと音を立ててキスを続ける。
「痣がある。
なぜだ?」
「…あ、痣?」
「そうだ。
この痣の色は8時間から10時間前にディーンが尻を打ち付けた事を教えてくれる。
なぜだ?」
そう言うとホレイショがディーンの痣をペロリと舐める。
ディーンが「あっ…」と言って尻を震わせる。
「ディーン、教えてくれ。
この白桃のような尻に不似合いの痣はどうして付いた?」
尻を舐めながらキスをするホレイショに、ディーンは身体も声も震わせながら答える。
「…か、階段で…転んだ…」
「階段?
ジニーはそんなこと、一言も言っていなかったぞ。
ディーンに何かあれば、俺に報告するのはジニーの仕事の範疇だ。
ジニーが仕事をサボったのか?」
「ち、違う!
ジニーは仕事をサ、サボるような…ヤツじゃない…っ!」
「じゃあなぜ?」
ホレイショが痣の無い方の尻に強く吸い付く。
ディーンの身体がぶるっと震える。
「…ぁっ…ああ…ホレイショ…やめ…」
「ディーン。
正直に言わなければジニーが仕事を失敗したことになる。
それでも隠すのか?」
ホレイショはそう言うとディーンの腰を掴んでいた手を離す。
ディーンがゆっくりと身体ごと振り返り、ホレイショに抱きつく。
「ジニーは止めたんだ!
でもプール掃除がどうしてもやりたくて!
それで…勝手にやって…尻もち着いた…」
ホレイショがフウッと息を吐く。
「ディーン。
君は狙われている。
しかも二つのグループに狙われている可能性が高い。
俺が言ったことを忘れたか?
この家から一歩も出るなと」
「…ご、ごめん…でも…プール掃除がしたくて…。
裏庭なら安心かと思ったし…」
ホレイショがやさしくディーンの顔を両手で包む。
「どうして?
なぜそんなにプール掃除なんてしたかったんだ?」
ディーンは黙りこくってホレイショを見つめている。
そしてディーンは突然ポロポロと涙を零し出した。
「ディーン?
どうした?」
「…明日で薬の注入が終わる。
明後日の午前中に医者から検査を受けて…腫れが引いて…治ってたら…この家から出て行かなきゃいけないんだろ?」
「ディーン!そんなことは」
「分かってる!」
ディーンがホレイショを遮る。
「俺は犯人を見たかもしれない。
記憶さえ戻れば証人になれる。
そういう人間は、警察に証人プログラムで保護されるんだろ?
本当は今だってこの家にいちゃいけないんだ。
ホレイショがこの家に俺が居る為に、力を貸してくれたのは分かってる」
「…ディーン…」
「だからさ…」
ディーンが涙を零しながら笑顔になろうとして果たせず、睫毛を伏せる。
「…明後日…ホレイショとジニーと別れても…ホレイショが帰って来てさ…プールが綺麗になって水がいっぱいになってて…それを見て…俺を思い出してくれたらいいなって…。
海に行けなくても…プールを見る度、お、俺を思い出し…」
ディーンはそこまで言うと言葉にならずに唇を噛んで、静かに涙を零す。
ホレイショがディーンを強く抱きしめる。
そしてディーンの頬に自分の頬をピッタリと付けて言う。
「済まない、ディーン。
こんな訊き方をして。
だがこうでもしなければ君は理由を言わないと思った」
「…ホレイショ…」
「なあ、ディーン。
君と病院の屋上で会った時、俺が言ったことを覚えているか?」
「…屋上…」
「そうだ。
俺は君の手を握って言った。
『私は何があっても君を離さない。君も離すな。』と。
今も同じだ。
ディーン。
俺は君の手を絶対に離さない。
だから君も離すな。
心配しなくていい。
俺の傍にいてくれ」
「…ホレイショ…!」
ディーンがホレイショの腕の中で、ホレイショにしがみついてわあわあと泣く。
まるで子供の様に。
ホレイショはディーンをただ強く抱きしめていた。
ディーンが壊れてしまう程、強く。
「ロウィーナ、協力してくれて本当にありがとう」
サムが心からの感謝を述べると、ロウィーナはそっぽを向いて深いため息をついてから、キッとサムを睨みつけた。
「仕方ないじゃない!
あんた達がまーたヘマをして、今度は警察無線で『67年型黒のシボレーインパラを発見したら、問答無用で警察に連行しろ』なんて聞いたって言うんだから!
ちゃんとナンバープレートを私が渡した物と交換して、トランクにある道具を隠してから、運転手にインパラを預けたんでしょうね!?」
ボビーが「勿論だ。道具ならここにある」と大きなズタ袋を持って即答する。
するとチャーリーが心配そうに「あの運転手は誰?大丈夫なの?」と言う。
ここにはサムとチャーリーとボビーしかいない。
ロウィーナの屋敷は悪魔と天使と賢人避けのまじないが幾重にも掛かっていて、クラウリーとカスティエルと言えども屋敷の敷地には一歩足りとも入れないのだ。
ロウィーナがホホホと高笑いをする。
「彼は30年以上も前から私の秘書兼弟子なのよ。
その上ダンスも上手。
お給料だって弾んでる。
あんた達よりよっぽど信頼出来るわ」
「でもどうやってこの屋敷までインパラを運転して来れたんだ?
警官がインパラ目指して街中ウヨウヨいるのに」
するとロウィーナがサムに向かって、「貧乏人の考え方ね」とバッサリ言い切る。
「パトロール警官に止められたら?
運転手はちゃんと免許証を見せてこう言うわ。
『主人がクラシックカーマニアでやっと見つけたんです』ってね。
それでも警官が引き下がらなったら、私のマイアミでの通り名を言って、車の登録証を見せる。
ま、登録証は秘書に作らせた物だけど完璧よ。
そして私の屋敷の住所を見れば納得してくれるわ。
なんたってここは、上院議員やマイアミの経済界のトップの豪邸しか無い通りですもの」
「あんたがホレイショ・ケインのお陰で大金持ちなのは分かったよ。
それでインパラを何処に隠した?」
ボビーに訊かれて、ロウィーナがまた深いため息をつく。
「ボビー。
あんたまで馬鹿なの?
ホントあんた達には絶望させられるわ!
車を隠すと言ったらガレージに決まってるでしょ!」
「だけどもしパトロール警官が報告して警察が来たら!?」
焦るチャーリーに、ロウィーナがうんざりした顔になる。
「チャーリー、少しは落ち着きなさいな。
インパラはもう解体してあるわ。
今頃部品を乗せたトラックがカンザスに向かってるわよ」
「解体!?」
サムとチャーリーとボビーの声が重なる。
ロウィーナが赤ワインを一口飲むと、哀れみの眼差しで三人を見渡して答える。
「あのね…良く考えてみて?
中身が見えない車両運搬車が走っていたら、インパラを血眼で探している警察が見逃すと思う?
絶対にトラックの中を確認されるわ。
でも解体してしまえば?
食品運搬車くらいの大きさでも余裕で運べる。
そこらのチェーン店のファミレスとかののね。
ディーンを取り戻して、カンザスの賢人の基地に帰ったら、ゆっくり組み立てればいいじゃない。
とりあえずレバノンのサムとディーンが行きつけの酒屋に届けさせとくわ」
「それは有難いけど…。
ここでの足が無くなるな…」
サムがそう呟くと、ロウィーナがすっと立ち上がり、拳をわなわなと震わせる。
「サム!
あんたも根っからの馬鹿なのね!
インパラには乗れない、イコール足が無いのが前提でしょうが!
あーヤダヤダ…。
あんた達に関わってると馬鹿が移りそう…。
私の車を一台あげるから、二度とこの屋敷に来ないと約束して!」
「…え?
車をくれるの?」
驚いて目を見開いているサムに、ロウィーナがフンと鼻を鳴らす。
「そうよ。
警察が追ってるあんた達が絶対乗らないであろうポルシェをあげるわ。
但し、返しに来なくていいからね!
邪魔になったら売って頂戴。
それから市内の五つ星ホテルのペントハウスを、料金前払いで一ヶ月貸し切っておいたから!
はい、これが車とホテルのキー!」
ロウィーナが車のキーとホテルのキーをテーブルに叩きつける。
「…ロウィーナ!
何から何までありがとう!
ロウィーナって本当はやさしいんだね…」
感動の余りウルウルしているサムに、ロウィーナが素っ気なく言う。
「はいはい。
お礼なんていいからさっさと出てって。
車は玄関を出た所の噴水の前に置いてあるわ。
外にいるファーガスとカスティエルにも、二度とこの屋敷に来るなってちゃんと伝えてね!」
「分かった!
本当にありがとう、ロウィーナ!」
チャーリーがニコニコしてそう言うと、サムとボビーを見る。
ボビーも安心したように微笑んで、「じゃあお邪魔のようだから、さっさと退散しよう。ありがとう、ロウィーナ。元気で」と言って扉を開ける。
するとロウィーナが「待って」と部屋から出て行こうとする三人に声を掛ける。
三人が振り返る。
ロウィーナがにっこり笑って扉の前までやって来る。
「言い忘れたわ。
玄関に車椅子が置いてあるの。
チタンフレームの最高級品よ。
それも別れの記念にプレゼントするわ。
役に立つから持ってってね。
じゃっ!」
そしてバタンッと派手な音を立てて扉が閉められ、三人は廊下に放り出される。
三人がキョトンとしてお互いの顔を見回す。
「…車椅子?
何で?」
ともだちにシェアしよう!