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第19話

ディーン… ディーン… 起きられるか? やさしい、やさしい声。 ディーンの瞼がゆっくりと開く。 「…ホレイショ…?」 ディーンが朧な人影に手を伸ばす。 伸ばした手がそっと握られる。 「そうだ。 おはよう、ディーン」 おでこにキスが落とされて、ディーンは握られたままの手を握り返した。 ディーンは一つ欠伸をすると「もう朝?」と言った。 ホレイショがディーンを抱き抱えて上体を起こしてやり、ディーンの唇に触れるだけのキスをする。 「寝ぼすけ王子様。 今7時過ぎだ。 薬の注入を済ませる。 一人でシャワーを浴びられるか?」 ディーンはパッと頬を赤くすると、「一人で大丈夫!」と言ってホレイショの腕から逃れると、慌ててベッドを出てバスルームに向かった。 前後の薬の注入を終えると、ホレイショはスーツ姿でベッドの縁に座り、ベッドに横になっているディーンの髪を梳きながら話しかける。 「昨夜のことは覚えているか?」 ディーンは瞬時に真っ赤になると、掛け布団を引っ張って頭から被る。 「こら、ディーン。 仕事の前に顔を見せてくれない気か?」 ホレイショにそう言われたら、ディーンも潜ったままではいられない。 そっと目まで掛け布団から出ると、ディーンを見つめているホレイショの視線とぶつかる。 そしてホレイショが流れるような仕草でディーンの瞳にキスをした。 「ディーン、綺麗だ」 ディーンが真っ赤っかになって、ぷいっと横を向く。 「綺麗とか言うなよ!」 「なぜ?事実だ」 「うっうるせー! デリカシーの無い男は嫌われるぞ!」 ホレイショがクスッと笑う。 「分かった。 それだけ元気があれば心配無いな。 じゃあ行ってくる。 また昼に」 ホレイショがサッと立ち上がり、スタスタと歩いてドアに向かう。 するとディーンが「昨夜のことは全部忘れろよ!行ってらっしゃい!」と大声で言った。 ホレイショは笑いを噛み殺しながら寝室から出て行った。 ディーンは白い天井を睨んでいた。 どうしても昨夜のことが頭を過ぎって消えてくれないからだ。 ホレイショにバブルバスの中、痛いくらい抱きしめられた。 そしてその後、ディーンは自らホレイショにキスを強請り、「…一緒に扱いて…ホレイショの手でイきたい…」と強請った。 まあ、ここまではいいかとディーンも思える。 だが二人で達した後、ディーンは泡の間から尻を突き出し、「…素股して…」と強請ってしまった。 ホレイショがその気になってくれるように身体をくねらせて、尻を振りながら。 これは駄目だろー… ディーンが一人でまた真っ赤になる。 ホレイショはディーンが強請れば、最終的に言うことを聞いてくれる。 焦らされたりしても、それはディーンを高めてくれているのだと分かる。 最中には全然分からないのだが。 結局ディーンは涙を零してホレイショの思うままになり、ホレイショに縋り付くだけだ。 だけどなあ…とディーンは火照る頬を持て余し気味に考える。 昨夜はホレイショが自分を『絶対に離さない』と言ってくれたことが物凄く嬉しくて安心できて、理性が吹っ飛んでしまった。 最後に風呂から出ようとしているホレイショに向かって『まだ嫌だ』と言い張り、ディーンを宥めるホレイショが止めるのも聞かずホレイショのペニスを頬ばってフェラをしてしまった…。 勿論、仕返しされてディーンもフェラでイかされたが。 その挙句、ディーンは風呂で逆上せてしまい、その後の記憶が曖昧だ。 薬を注入されたことも覚えていない。 ホレイショはきっと看病してくれたよな… ディーンがため息をつく。 ホレイショに、怪我人の癖に我慢の利かないドスケベだと思われてたらどうしよう!? ディーンが今度は青ざめる。 ホレイショはやさしいから、怪我をして記憶も無い俺に同情して、俺の行為に合わせてくれてるだけだとしたら…? …内心、軽蔑されてたら…? ディーンが一人で赤くなったり青くなったりして、結果的に勝手に落ち込んでいると、ノックの音と「ディーン、おはよう!」とジニーの元気な声がした。 ホレイショがマイアミデイド署のCSIの階でエレベーターを降りると、受付の制服警官に「警部補、伝言があります」と呼び止められた。 ホレイショは「ありがとう」と言ってメモを受け取ると、その場で二つ折りにされたメモを開いた。 そしてすぐ様、足早に自分のオフィスに向かった。 「トリップ、捜査中に済まなかった。 それで現場の保存は?」 トリップが笑顔で答える。 「捜査中と言っても聞き込みだ。 それも一段落着いたところだったからな。 現場は完璧に保存している。 カリー達の到着を待ってるよ。 それでどんな情報を掴んだんだ?」 ホレイショがデスクの上で手を組み、前のめりになる。 「2年前、あるモーテルの支配人が強盗殺人の容疑者になった事件を覚えているか?」 ホレイショのデスク越しの椅子に座るトリップが頷く。 「勿論! モーテル・シップスの経営者兼支配人エド・モローだろ。 アパートが借りられないような連中や、売春婦を呼んだり浮気に使われるような安宿中の安宿だ。 終身刑になるところを、お前がアイツの無実を証明して真犯人を上げた。 新聞の一面にも載ったし、テレビのニュースでもバンバン流れた。 ワイドショーで特集も組まれたよな。 モローからのタレコミなのか?」 「そうだ。 モローから今朝CSIに伝言があった。 俺に話したい事があるが、モーテルの電話は盗聴されているかもしれないから、9時30分に公衆電話からマイアミデイド署に電話をして俺に繋いで貰うから、オフィスで待っていてくれと。 それで時間ピッタリに電話が掛かってきた。 病院の破裂の事件についてだ」 トリップの笑顔が消える。 「『サム・ゴードン』か?」 ホレイショがトリップの目を見て頷く。 「そうだ。 まだ『サム・ゴードン』がクラブ・ジョーの事件の被害者か、ディーンの拉致監禁及び性的暴行の共犯者か判別出来ないので、病院の容疑者を特定するような情報をマスコミに発表していないが、モローは2年前の事件で相当神経質になったらしい。 それはそうだ。 一生刑務所から出られないと一度は覚悟したからな。 そこでハッキリとは認めなかったが、警察無線を傍受しているらしいんだ。 まあ、この件は別に構わない。 そこでだ。 モローは病院の破裂事件の関係者が、67年型の黒のシボレーインパラに乗っている可能性が高い、マイアミから絶対に出すな、問答無用で連行しろという俺からの指示を聞いたらしい。 それで窮地に追い込まれた」 「…まさか! インパラがモーテルに!?」 「ああ。 しかもあのモーテルはダブルベッドで一部屋35ドルだ。 それなのに1日100ドル追加するから、モロー曰くツギハギされたオレンジ色っぽい車と黒のインパラと白い古びた車…これは車種は分からなかったと言っていたが…この三台を、カバーを掛けてモローの事務所用の駐車場に停めさせて欲しいと言われた。 モローの駐車場は事務所の裏だ。 モローの車にプラス三台では事務所裏だけでは流石に狭すぎるので、モーテルの裏側にも置かせてやった。 モローは自分のモーテルなんて訳ありの客しか来ないようなモーテルだからと気にしなかった。 それよりも美味しい話だと思って引き受けた。 宿泊客達はカバーを外して出掛けたりしていたが、帰ってくる度にいちいちきちんとカバーを掛けていた。 そしてまずツギハギのオレンジっぽい車が消えた。 それでもその宿泊客達は金を支払ってくれたので、モローは気にしていなかった。 ところが一昨日の夜、警察無線で黒のインパラが探されているのを知った。 モローは客が居ないのを見計らってインパラを確認した。 確かにそれは67年型の黒のシボレーインパラだった。 ここでモローは迷ったらしい。 だが警察に関わるのは二度とごめんだと無視することに決めた。 そして昨夜、車を預けた宿泊客達に男の来客があって、宿泊客達と来客の男全員が、事務所の裏で何かを始めた。 モローは胸騒ぎがして、事務所の裏が見渡せる窓から望遠カメラで覗いてみた。 望遠カメラは、防犯カメラが事務所の裏には扉にしか着いていない無いので、自分の車を見張ったり侵入者がいないか確認して証拠写真を撮る為に使っているそうだ。 すると宿泊客達のうち男二人がインパラのトランクからショットガンや拳銃を何丁も袋に詰めていた。 それだけならまだモローも見て見ぬふりを通すつもりだったが、サイズ違いのナタや大ぶりのナイフを数個に木の杭まで詰め込んでいた。 モローによると『バンパイアの心臓に打つのに丁度良い、血で汚れた杭』だ。 ナタやナイフも血液らしき物で汚れていたらしい。 それに銀色の金属の杭もあった。 それと大きな塩の缶が幾つも。 それから十字架が沈められているキャンプで使うような半透明の水の容器、スプレータイプのカラーペイント数個に複数の大きなスコップなどなど…。 モローは必死で写真を取り続けた。 すると今度はナンバープレートを取り替えだした。 そしてナンバープレートの取り替えが終わると、来客の男がインパラを運転して去って行った。 それから小1時間もすると、今度は宿泊客達が現金払いでチェックアウトを済ませると、白い古びた車に乗って去って行った。 因みにチェックインした時もキャッシュで前払いしたそうだ。 そうして一晩モローは悩んだ末、俺に連絡してきたということだ」 トリップがニヤッと笑う。 「宿泊客『達』か。 それは男三人に女一人のグループじゃないのか? 特徴は髭面と大男とトレンチコートと赤毛、だろ?」 ホレイショもフフッと笑って頷く。 「モローは宿泊費を踏み倒されないように、ロビーには高性能の防犯カメラを装着している。 360度撮影可能でカラーだ。 昨夜カメラで撮った写真は、相手に気付かれないように赤外線カメラで撮ったが、うちの技術でカラーに出来る。 これでアイツらを銃刀法違反でも引っ張れるかもしれない。 それとインパラに元々付けられていたナンバープレートは宿泊客達に遮られて見えなかったが、新しいナンバープレートは写真に撮れたそうだ。 インパラを確認した時は精神的に余裕が無くて、三台のナンバープレートを記録しなかったことを悔しがっていた」 トリップがまん丸い目をグリグリさせる。 「だが取り替えられたナンバープレートから所有者が割れるな!」 「もう、割れてる」 ホレイショがファイルから一枚紙を外し、テーブルに置く。 トリップは素早く掴むと、途端に眉間に皺を寄せると呟いた。 「……こりゃ大物だな…。 第一、会ってもらえるのか?」 ホレイショは表情一つ変えず、「現場はチームに任せて、我々はそのマダムに会いに行くとしよう」と言った。

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