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第27話

ホレイショが素早く無線電話を掴む。 『ホレイショ! 僕だよ!』 「ジニー、何があった!?」 皆の視線がホレイショに集中する。 『ホレイショの言う通りレベル3の防御体制を取った! だから窓も全部内側から鉄板で覆われてる! でもさっきから何かを撃って来るんだ!』 「何か? 銃じゃないのか!?」 『違う! 前にホレイショに銃の音を聞かせて貰っただろ? 今の音は9ミリでも22口径でも45口径でもライフルでもマシンガンでも無い! 僕は一度聞いた音は絶対に忘れない! もっと大きくて軽い音だ!』 「ありがとう、ジニー。 良く分かった。 警備会社が既に向かっているだろう。 これから警官とスワットを大至急向かわせる。 ジニーとディーンは今すぐパニックルームに避難しろ。 俺が行くまで絶対に出るな!」 『分かった!』 プツッと無線電話が切れる。 ホレイショが無線電話片手に警察無線を掴む。 「こちらホレイショ・ケイン。 自宅が襲撃されている。 家の中に重要証人一名、民間人一名がいる。 警官とスワットを向かわせろ」 『了解です!警部補』 ホレイショが無線を切り無線電話をテーブルに置く。 デルコが慌てて「俺も行きます!」と言う。 ホレイショが「まだ話しは終わっていない。二人はパニックルームに避難している。必ず持ちこたえる。そこで、だ」と話し出す。 「医師によると点滴をされていたスティーブン・マーシーの回復はかなり難しいそうだ。 後2~3時間しか保たない。 それからアレックスの検死報告書によると、ティモシーの首は身体が垂直の状態で水平に切断されている。 もしティモシーの首を確実に切断しければ、ティモシーを寝かせる方が簡単だ。 『サム・ゴードン』一味は武器を大量に所持しているのだから、ティモシーを脅して寝かせる事などそれこそ簡単だっただろう。 それなのに立っているか座っていたティモシーの首をわざわざ切断した。 この連中はティモシーを殺すだけでは無く、『首を切断して殺す』事が最終目的だったんだ。 そしてティモシーの首を切断したのに、何故かスティーブンには軽い麻酔薬を首に注射して連れ去り、大量の強力な麻酔薬を点滴して殺すという時間のかかる手段を取っている。 スティーブンも殺すなら、お得意の首を切断する技を使えばいい。 だがそうしなかった。 何故か? 今の状況から判断すれば、スティーブンから何らかの情報を引き出したかったのかもしれないとも考えられる」 デルコがホレイショの目を見て言う。 「最初は麻酔を弱く打ち、麻酔薬が致死量に達する前に答えろと拷問したんですね」 「その可能性が高い。 だがティモシーとスティーブンは二人で『事業』という名の犯罪を犯してきたんだ。 それなのにスティーブンから情報を得るだけで、ティモシーには何も訊かず首を切断するだろうか? 二人が嘘をついていないか個別に尋問しても良い筈だ。 そう考えれば『サム・ゴードン』一味のメンバーには、情報という最大の利益を得ることを優先するよりも殺人を選択する者がいて、それを止める者もいないという事になる。 何より強い絆で結ばれている危険というより狂った集団だと推測出来る」 ナタリアが真っ青になって呟く。 「じゃあディーンはやっぱりこの集団から抜け出したくて、リンチや拷問を受け流血した状態で、ボビー・サーストンのツギハギの車に乗ったのね…」 「現状の証拠から推測すれば、そうだろう。 ディーンは記憶喪失だが、明るくて誠実で人を楽しませて自分も楽しむような性格だ。 少々子供っぽいところもある。 それに追われている事に心底恐怖を覚えている。 そんなディーンがその集団に馴染めないのは当然だ。 多分弟の『サム・ゴードン』を介して集団に入れられたんだろう。 ディーンの容姿は武器になるからな。 そして最大の問題はヤツらがディーンを諦めていないという事だ。 スティーブンはディーンの拉致に成功している。 つまりスティーブンはクラブ・ジョーの存在が明るみになって消えてからも、ディーンを追いかけていた可能性が高い。 多分『サム・ゴードン』一味は、スティーブンから『今』のディーンの情報を得ようとして麻酔薬を使い拷問したんだろう」 ホレイショはそう言い切ると、チームを見渡した。 「デルコとカリーは麻酔薬の出処を当たれ。 あの麻酔薬は大きな手術の行える病院の医師でしか購入出来ない。 『サム・ゴードン』一味の行動範囲を掴めるかもしれない」 カリーとデルコが「了解です」と言ってレイアウト室を出て行く。 「ウルフとナタリアは、ティモシーの死体と生きていたスティーブンをどうやってペントハウスに運び入れたのかを洗い出せ。 特にティモシーの死体を、なぜペントハウスにわざわざ運んだのか理由が知りたい。 ティモシーを殺すのが目的『だけ』なら、自分達に容疑が掛からないように始末するのが当たり前だからな」 ウルフとナタリアも「了解です」と言ってレイアウト室を出て行く。 ホレイショは一人になったレイアウト室で、無線電話を手に取った。 今、ディーンとホレイショを繋ぐのはこの無線電話だけだ。 ホレイショがジニーに指示したレベル3の防御体制が取られると、防御システムが作動し、家中の窓や、外に繋がるドアの全てを、自動で内側から鉄板で覆われる。 45口径の銃やマシンガンでも鉄板は破られない。 ホレイショはディーンがガレージのドアで叫んだ声を思い出していた。 『ホレイショ!気を付けろよ!待ってるから!』 ホレイショは無線電話を強く握りしめると歩き出した。 「失敗したぁ!? 一歩目で失敗してるじゃん! 愚か者はどっちよ!?」 チャーリーの怒鳴り声が、サムとボビーとカスティエルとクラウリーのヘッドセット型の携帯電話に響き渡る。 クラウリーが『その筋の達人』に用意させた、複数が同時に会話出来るヘッドセット型の携帯電話だ。 しかも盗聴されない。 クラウリーも負けじと怒鳴り返す。 「仕方無いだろう! ホレイショ・ケインの自宅の全ての窓という窓、それに玄関や裏口は鉄板で覆われていた! チャーリーこそホレイショ・ケインが加入している警備会社にハッキングして、ヤツの自宅の図面や警報体制を見て『窓硝子が割れたら警備会社が自宅に急行するレベル』と言っていたじゃないか! それなのに鉄板だぞ!? 麻酔弾はことごとく跳ね返された! そして警察無線でホレイショ・ケインは警官だけでは無くスワットまで自宅に行かせた! 撤退するしか無いだろう!?」 「私のせいだって言うの!? それじゃ通気口から流した麻酔ガスは?」 クラウリーがゴホンと咳払いをし、「…効かなかった…と思う。見張り役の部下は救急車の到着を見ていない」とボソボソと答える。 チャーリーが勝ち誇ったように言う。 「ほらね! クラウリー、あんた私達になんて言った? 俺様の作戦でしかディーンを奪還出来ないとかほざいて無かった? それが最初の作戦が丸潰れとはね! 呆れた!」 その時「もう止めんか!」と今度はボビーの怒鳴り声が響き渡る。 「どっちもどっちだ! チャーリーは出来る限りの情報を掴んだし、クラウリーも尾行を失敗したと見せかけて実は尾行を成功させるという作戦を果たした。 ホレイショ・ケインの自宅の窓や玄関が鉄板で覆われているなんて、誰にも予測出来なかったんだ。 二人は良くやった! ただ相手が一枚も二枚も上手だという事だ! 罵り合って何になる? 今こそ協力すべきだろう!?」 チャーリーの「…は~い」という小さな声と、「そうだ!俺様はあのホレイショ・ケイン相手に尾行を成功させたんだ!」という浮かれたクラウリーの声がする。 するとボビーの地を這うような冷たい声がした。 「それでクラウリー? ディーンは何処に移されたんだ?」 途端にクラウリーが気弱な声になる。 「そ、それがな…。 ホレイショ・ケインはやって来たんだが…一度家の中に入って直ぐに出て来ると、部下らしき男女と家の周りを調べているだけだ…。 ディーンの姿は見えない」 サムがハーッと深いため息を付くと言った。 「チャーリー、クラウリー、頭を切り替えよう。 最初にディーンを取り戻すというプランAは失敗したって事だ。 じゃあプランBで行こう。 まずはプランBの予定通り、顔を知られている僕とボビーとチャーリーとキャスはマイアミを出てコロラド州の州境に向かう。 クラウリー、次に失敗したらロウィーナに頭を下げてもらうからな!」 「わ、分かってる! 俺様はもう空港に向かってるところだ! 任せろ!」 クラウリーが焦った早口で言うと、プチッと通話が切れる。 サムも通話を切ると、また深いため息をついた。

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