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第13話 2月7日(金) エベレストは標高8,848m

 今日もいつものように犬谷に家まで送ってもらう。犬谷のことが気になりだすと、なんだか一緒に帰るのが恥ずかしい。  緩やかなスロープを降りて駐輪場に自転車を停めると、犬谷はじっと俺を見ている。 「なんだよ」 「キス、していいか?」  周りを見れば誰もいないし、人の気配もなかった。 「いい、けど?」  そう言って犬谷のキスを俺は受け入れた。外なのに、だ。 「ただいまぁ~」  帰ると火の気のない家に、金曜日は母さんのパートが遅番の日だったことを思い出す。  いつも部活で俺の方が帰りが遅いからそういう意識もなかったが、そういう日もあるのだ。  ちょっとだけ手伝いをしようと、ご飯を3合炊く。父さんは単身赴任でいないし、姉さんも就職で東京に行っているからそんなもんだろう。  母さんいわく本当は2.5合が丁度いいらしいが、水加減が分からないので俺が炊くときは3合と言われている。  さて珍しく手伝いもしたところで、俺には後回しにしていたことがある。  インターネットを考えた人間は本当にすごいと思う。知りたい情報はこれがあればほとんどすべて分かるのだから。  スマホを持って検索エンジンで知りたいワードを入力した。 「う、そだろ……」  大人は俺たちのことをネット世代だとか言うが、分かってしまうが故の苦悩もある。  まさに今『男同士のセックスはケツの穴を使う』だなんて知りたくなかった。 「え、マジ? 入るの? チンコだよ?」  さすがに勃起したチンコは自分のものと、モザイクがかけられたAV男優のものしか見たことがない。  自分のもので考えたとしても、これがケツの穴に入るとは思えない。 「犬谷のチンコって……どんなサイズだ?」  夏の合宿で風呂に入ったときのことを思い出す。そうそう、可愛い顔して吉田はコブラみたいなチンコでチンコブラとか言ってからかったなあ。岡田先輩はダークホースだったか。  いや、吉田も岡田先輩も今はどうでもいい。犬谷は……そうだ、たしか高木が叫んでいた。  エベレスト。そうエベレストだと。  検索エンジンで『エベレスト』と検索する。  雪に覆われし美しいヒマラヤ山脈の世界最高峰の山。標高8,848m。 「エベレストって……なんだよそれ。犬谷のチンコ、どんだけ壮大なんだよ」  仮にエベレストをケツの穴に入れるとして、どうやっていれるのか。 「ローションで滑りをよくして、リラックスした状態で指などを入れる……はぁ? んなもんねえよ!」  ローションなんて一般家庭にはない。ぬるっとするものはなんだ。サラダ油しかないだろう。  台所を漁り、小皿にサラダ油を注いで部屋に戻る。  ズボンとパンツを脱いで人差し指にサラダ油をつけた。  ベッドを背もたれにして床に座り、両足を広げて股の間からその指を自分のケツの穴に添える。ゆっくりと差し込んでみると、自分の指が意外とすんなり入っていく。 「う……わっ、入ったし」  指の先っぽが埋まったところで、もう少しだけ入れてみようとまたゆっくり指を差し込む。圧迫感が酷い。 「無理だろ、マジで。どうかしてんな、俺」  どうにか第二関節まで入った人差し指はぎゅう、と締め付けられている。そんな指を少し回しながら引き抜こうとした時だった。 「あ……っ!」  からだをゾワリとした感覚が走る。 「な、んだ、今の」  もう少しだけ同じように指を動かすと、同じくゾワゾワとした感覚が突き抜ける。その感覚に我慢できなくなり、思いきり指を引き抜く。  ホッとひと息ついたところで、俺は自分のソレが緩く大きくなっていることを自覚した。 「嘘やん……」  慌ててバスタオルを引っ掴み風呂場へ行く。  熱いシャワーを浴びながら、油で汚れた部分を洗い、からだを洗うついでに大きくなったソレを緩く扱く。  そう言えば以前、犬谷は俺に何をしたか。俺のこれを舐めたのだ。  犬谷の整った顔に鎮座するきれいな形の、でも普段は真一文字になっている唇が、俺のを咥えた姿を思い出す。 「く、ふぅ……」  くちゅりと、ボディーソープが音を立てる。たしかあの時も、こんな音がしていた。 「いぬ、たに……んっ!」  罪悪感が襲い来る。俺は、犬谷で抜いてしまった。

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