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第14話 2月8日(土) そんな場合じゃない

「いや、男同士のやり方とか調べてる場合じゃねえんだよ!」  さて、明後日から学年末テストがはじまる。そしてここ最近の俺はどうかしていて、まったくテスト勉強をしてない。  そう言うやつに限ってコソコソ勉強(コソ勉)してると言うが、俺は本当にしていない。  勉強なんかする暇はなかったし、今日なんか思い悩みすぎて昼の12時過ぎに起きてしまった。  現代文と古典はいい。現代文のハゲ先生も古典の小町先生も、テストに出すところは癖がある。だからそこをやっとけばなんとかなる。英語はもう暗記しかないから、とりあえず暗記する。  問題は日本史と理数系だ。 「やべぇ、キャプテンが赤点とか取ったら、マジ後輩に示しがつかねぇ」  こんな時頼りになるのが友達だ。……だといいのだが、あいにく俺の友達は全員俺と同レベルかそれ以下の成績ばかりの奴らだ。  今年の1学期の中間テストで奴らを信用したばかりに、酷い目にあっているから確実だ。  そういえば、犬谷の成績はどうだっただろうか。今まで同じクラスになったことがないので分からないが、赤点は取ったことはなさそうだ。  昨日の罪悪感はまだ残っているが、藁にも縋る思いというのはこういうことだろう。俺ははじめて自分から犬谷に電話をかけた。  3コールほどでスマホがブッと短く振動し『もしもし』という、電波で変換されたゆがんだ声とともに通話がはじまる。 「お、お疲れ。犬谷さあ、テスト勉強どんな感じ?」 『普通』 「俺、全然でさ、赤点とるかも」 『……ヤマ、教えてやろうか』 「マジ?! あの、日本史と数学ⅡとB。あと物理が特にヤベーんだけど!」 『理数系なら大丈夫だ。泊りでもいいか?』 「え、泊り?」 『さすがに今から今日中で、その4教科を教えてやるのは難しい』  部屋の時計を見る。時間は14時。 「デスヨネー」 『迎えに行く』 「はあ? いいよ。家知ってるし。チャリで行く」 『わかった、待ってる』  母さんに犬谷の家に泊まると連絡し、教科書やらと一応練習着なんかもスポーツリュックに詰めて家を出る。  何のために犬谷の家に行くのかと言われると、勉強のためではある。それでもそこに半コートがあるのであれば、持って行ってもバチは当たらないはずだ。  勉強よりバスケが好きだから仕方がない。  例の日本庭園の先にある犬谷の家のインターホンを押す。 「マジありがと~! すっげー助かんよ!」  さて犬谷の家にお邪魔してバスケのバの字も出ないまま、もうすでに4時間は経過した。 「あの、犬谷。ちょっとお外でバスケしねえ?」 「断る」 「だって、もう勉強はじめて4時間だぜ?! もームリ!」  「赤点、いいのか?」 「鬼!」 「もう外も暗い。今日がんばったら、明日の朝しよう」  犬谷がそう言ったのと同時に俺の腹が鳴った。 「そういや、夕飯どうする? コンビニ行くか?」 「いや、家政婦さんが作ったもんがあるから、それ食うぞ」 「家政婦……」  大量の唐揚げにサラダ、スープにほうれん草のおひたし。スープを温め、唐揚げを電子レンジで温める。  カチャカチャと小さく箸が皿に当たる音が響く食卓は静かだ。最近は部活で帰りも遅いから、家での食事も静かだがそばに母さんがいてなんだかんだ話しながら食べる。  犬谷は昔からこんな静かな中で生活していたんじゃないだろうか。だとすれば社交性の無さや、無愛想さもなんとなく分からなくはない。 「普段さ、ひとりで食うの? テレビとか見ながら食わねぇの?」 「ひとりだな。近くにテレビはあっちの部屋と俺の部屋にしかない」 「そっか」 「飯食ったらまた残りの数学やるぞ」  少し犬谷という男が分かった気もしたが、これだけは言える。勉強の絡んだ犬谷は非常な男だ。  夕飯を食べて、すぐにはじまった数学に俺の脳みそは限界を訴えた。 「犬谷センセー、頭が爆発しそうデス」  もう23時だ。そろそろ今日の勉強地獄からは解放されたい。 「そうだな。そろそろ寝る準備をしよう」 「やった! 俺、床借りていいか?」 「一緒に寝たらいいだろ」  確かに、犬谷のベッドはやたらとでかい。男ふたりでも余裕があるくらいだ。 「お、おう」 「じゃあ俺、先風呂入るから。後でタオル貸す」  犬谷はそう言うと部屋を出ていった。  一緒のベッドで寝るのかと思うと、どうにも落ち着かない。

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