突然の変貌には呆気にとられたが、いくら容姿が整っていようと王道は王道だ。それに思い至ると自由になった手で体を押しやる。 　 「そこから……退け。お前につきあっていられるほど俺は暇じゃねーんだよ」 　どうにかして逃げだそうと考えるも、王道はその手を容易く外してしまう。 　それから俺の頭の両側に手をつくと顔を覗きこんできた。 「へえ」 「……っ」 　興味深そうにこちらを見下ろしてくる顔がクソ憎たらしい。 　数秒睨みつけていたが、眼鏡越しではない王道の真紅の瞳は長時間見続けるものではなかった。吸いこまれそうな、脳みそが痺れるような、そんなおかしな感覚を覚えて慌てて顔ごと横に逸らす。 　心臓がドクドクと脈うつ音がやけに大きく頭に響いた。 　そうしているとふっと笑う気配がして、唐突に顎を掴まれ正面を向かされる。 「ぅぐ？！　な……」 　顎に響く鈍い痛みに抗議をしようとしたが、それより先に生温かいものに口を塞がれた。 「ッ！」 　ぎりぎりと顎を掴む指に力をこめられて、痛みから逃れようと薄く口を開いた瞬間、ぬるりとしたものが中に侵入してくる。それは人の口内を無遠慮に動き回ると、奥で縮こまっていた俺のものに絡みついてきた。 「ンっ！　……や、めろ！」 　頭を振って逃れようにも、王道が肌に食いこむほどの強い力で押えこんでくるせいで身動きがとれない。さらに同じ理由でやつの舌に歯を立てることも敵わない。 　最悪だ。なんで野郎なんかと、しかも王道なんかにキスされてるんだ。 　気持ち悪い。気持ち悪い。 　ぎゅ、と力一杯瞼を閉じてこの最悪な状況が一刻も早く終わることを願う。 「う……、くっ」 　口内を掻き回されて、舌を強く吸われる。唇が擦れるたびにできたばかりの傷が痛みを訴え、鉄の味が口の中に広がった。 　まともに息をつく暇もなく、口周りは俺のものともこいつのものとも知れないもので濡れてベトベトになっている。 　王道に触れられる場所が酷く熱くて。溶けてしまいそうで怖くなる。抵抗なんてする余裕はなかった。ただこの奔流にのまれないよう王道の服を握り締めるしかない。 「ンッ、ンン……」 　激しく長い口づけにとうとう酸欠になり首を振って限界を訴えると、それまでしつこく舌を絡めとっていた王道のものがあっさりとほどかれる。 　ようやく解放されると安堵しかけたところで、王道の舌先が俺の上顎をつうっと舐めあげた。 「……っ」 　ぞわりとしたものが背中をかけあがり、体がびくりと震える。下腹部に鈍い痺れのようなものを感じて膝を擦りあわせていると、ちゅ…と水音をたてて王道の唇が離れた。 　解放された瞬間、はっと酸素を取りこむ。うっすらと目を開けば己の舌と王道の舌とのあいだに細く糸が引いていて、目が合うなり王道は見せつけるようにそれを舐めとった。過敏になった舌先に、ぷつりと糸が切れる感覚が伝わってくる。 「……っ……」 　頬が焼けるように熱くなった。 　顔を合わせていられなくなって、慌てて顔を背けると何度も唇を拭う。 　体がおかしい。王道に触れられたところすべてが熱かった。体の中心など、触られてもいないのに熱をもってもたげている。すべて、嫌悪しているはずの王道とのキスにて引き起こされた現象だ。 　その事実に絶望する。喉の奥がしめつけられるような感覚がして、呼吸が苦しくなる。 「どうした？　すっかり大人しくなって、さっきまでの威勢はどこへ行った」 「うる……っせー」 　疑問を口にしながら、その実何もかもを見透かしたような王道にいらついた。せめてこんな状態であることは見せたくなくて、体を捻って隠そうとする。 　けれど俺のそんななけなしの抵抗はあっさりと封じられた。 「なんだ、大人しくしていろ」 「くそ。退け……っ」 　それでも無理やり体勢を変えようと暴れると、王道に呆れた様子で窘められる。 「何をさっきからもぞもぞと。落ち着きのないやつだな……ああ、もしや早くコレに触れと急かしているのか」 　そう言うと躊躇いなく中心に手を這わせてきた王道に、息を詰まらせる。 「バ……！　ッさわ、んな！」 「それは悪いことをした」 「ちげぇ……っ」 　ガバリと上体を起こして抗議しても、王道はまったく人の話を聴いていない。 　なんとか振りほどこうとするが、その手がやわやわと揉みしだくように動かされて甘やかな刺激が与えられると、もうそれどころではなくなってしまう。 「く、う……」 　服越しの刺激にびくびくと腰を震わせていると、それまで確かめるように動いていたものが、より快感を引きだす直接的な動きに変化した。 　折り曲げられた人差し指と中指が、布をやんわりと押し上げるそれを挟んで上下する。 「う……あ、あっ」 　自分でも信じられないような声が出て、慌てて片手で口を塞いだ。 「……っ……く、ぁ」 　ぐいぐいと強めに擦られるたびに下着の中がじわじわと湿っていくのが分かって、死にたくなる。 　王道はどんなつもりでこんなことをしているのか、まったく理解できなかった。