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第2話

 ここまでだと、海崎が面食いというだけのように見受けられてしまうが、陸に惹かれたのは決して外見だけではない。    生真面目な性格、ほかの部員が書いた作品に対する論評、そして何より陸自身が書いた作品にも惹かれた。粗削りなところはあるものの、心理描写が巧みなのだ。日頃から入念に人間観察を行っているのだろう。 己の感情に驚きつつも腹を決めた海崎は行動に出ることにした。気になった相手のことをもっと知りたいと思うのは人の性というもの。  陸は決して口下手というわけでもなければ、あがり症というわけでもないのだが、あまり他人に深入りしない性質を持っていた。しかし、転勤族の父を持つ海崎は、人との距離の詰め方が上手く、陸が懐いてくるのは自然の流れであった。下宿先が近かったのも、二人の距離が縮まった要因の一つであったと思われる。  その特質のため、海崎は陸について色々知ることができた。気の置けない相手に対しては一人称が「僕」ではなく「俺」になること、気が緩むと方言が出てしまうこと。高校は男子校だったこと。考え事をするときに唇を触る癖があることに気が付いたのは、その特質とは恐らく関係はないだろうが。 しかし、いくら懐いてきたとは言え、同性である。海崎は手をこまねいていた。急いては事を仕損じるというし、嫌われてしまうのは悲しい。    周囲から怪しまれても、陸が離れてしまうかもしれない。同学年の部員から「海崎は陸がお気に入り」と言われる度に「趣味が似てるからつい構ってしまう」と言ってかわしてきたが、肝が冷える思いだった。  上手くやれていたのか海崎自身は判断しかねるところであったが、熱を帯びた視線を感じるとその主はいつも陸であった。  しかし、そんな二人が先輩後輩という間柄からそれ以上の関係になったのは、つい最近のことである。出会ってから二年弱が経過した先日の忘年会。陸が成人になってから、初めての飲み会である。  まだそれほど酒に慣れていないからか、ほんのりと頬を赤らめ、いつもより柔らかい表情を浮かべていた。海崎はお開きになった後、下宿先家が近いのを口実に陸を家まで連れて帰ることにした。途中のコンビニでペットボトルのお茶を二つ購入し、海崎は陸を自室へ上がらせた。最初躊躇いを見せていた陸であったが、その足取りはふらついており、失礼しますと小さな声で呟いてから海崎の後に続いた。冬だというのに襟ぐりの浅いセーターを着て、白い首筋をさらけ出した青年を寒空の下に一人にしておくことはできなかった。  カーペットの上に座らせ、先程購入したペットボトルを陸に渡してやろうとする。陸はゆっくりとした動きでそれを取ろうとした。意識をしたわけではないが、二人の手がわずかに重なる。やはり指先まで冷えていたのか、陸の手の冷たさが伝わる。

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