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第3話
「すみません」
「いや、大丈夫だよ」
手が触れることは珍しいことでもなければ、大したことでもないはずだ。しかし、陸は大げさに謝った。
非は何もないというのに。海崎から受け取ったペットボトルの蓋を開け、その中身を口に含んだ。海崎は、その華奢な首筋が緩やかに上下する様をまじまじと見つめてしまう。500㎖のペットボトルの中身を一気に飲み干すのは厳しかったのか、ある程度口に含んだところで、口を離した。ふうともれた息、濡れた唇から目をそらすため、海崎は暖房を入れることにした。
それからは他愛ない話をした。年末年始は地元に戻るのかとか、成人式には出るのかとか。簡単な話をしていれば、陸の酔いも醒めるのではないかと海崎は考えたからだ。欲を言えば、もっと色々話をしたいという気持ちもあったのだが。
陸もその問に対して帰る予定ですとか、成人式には出ませんとか、声自体はいつもよりぽわんとしたものだったが、受け答え自体はできていた。
しかし、その頬はいまだに赤く色づいており、視線はあちこちを移動していた。その様子から陸が緊張しているのではないかと海崎は感じた。何を緊張することがあるのだろうか。本の貸し借りなどで、これまでに何度も陸を部屋に上げたこともある。海崎が陸を見つめる程、その朱は強くなっていく。
「顔が赤いぞ。まだ酔いが醒めないか?」
海崎のその言葉に陸はびくりと体を震わせた。自分の顔が赤いことを自覚していたのか、気まずそうな表情をする。海崎は不思議に思った。酔って顔が赤くなるのはよくある話なのだから、そんな表情をする必要はないだろう。
「大分醒めました」
「でも、顔が赤いんだよな。もしかして、暖房が暑かったか?」
「大丈夫です」
普段は色白な陸の顔色が戻らないことを海崎は心配していた。しかし、見つめれば見つめる程陸の顔色は赤くなるばかりであった。気まずそうな表情に加え、しきりに瞬きをしているのが、長い睫毛が動く様から伺えた。
「……もしかして、早く帰りたかったか?」
「違います!」
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