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第6話

「陸は俺とどうなりたいのかな」  海崎は平静を演じ、陸をさらに追い詰める。その問いに何を思い浮かべたのか、陸は頬を赤らめた。そしてまた、少しの間押し黙る。 「ただ、傍にいることを許してほしいです」  傍にいたいだけなら、そんな風に顔を赤らめる必要はないだろう。何も知らない乙女のような願いに、海崎はいじらしいと思いつつも、よもや掌で転がされているのは、自分なのではないかという疑念さえ浮かべていた。しかし、これ以上いじめるのは不憫である。自身と陸の気持ちは同じであることは痛いほどわかったのだから、こちらも正直に打ち明けるべきだろう。 「本当に?それだけでいいのか?こういうことがしたいんじゃないのかな」  海崎のその行為自体は、ありふれたものだった。人生初というわけでもない。ただただ、相手を自分の腕に招き入れるというだけの行為。かつては両親から親愛のそれを、成長してからは友人とふざけ合ってしたことはあった。今この瞬間の行為が過去のそれと違うとしたら、同性相手に慈しみと愛情を乗せている点であろうか。  陸が息を呑む音が聞こえる。ただ抱きしめただけだというのに、腕の中にいる陸を見やれば、白い肌が一気に色めいたのが分かる。瞬きの回数が明らかに増えており、視線をどこにやればいいのか分からないといった様子が読み取れる。美男子がうろたえるその様が、何とも煽情的である。 「先輩……同情のつもりなら、やめてください」 「陸、お前は一つ勘違いをしている」 「何がですか」 「俺はね、同情してこんなことをする程、優しい人間じゃないんだ」  陸の体から抵抗の力が緩むのを感じたが、それでもなお信じ難いのか、涙声でつぶやく。 「嘘だ」 「嘘じゃない」 「だって、これじゃあ、僕にとって都合がよすぎる」 「俺も同じ気持ちだよ。陸、俺のこと好きなんだ。こういうこと、したいくらいにね」

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