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第7話

 抱きしめる力を強めると、腕の中から戸惑いと歓喜が混じった言葉にならない声が上がる。そして、返事の代わりに、陸の腕が海崎の背に回る。海崎は、ポンポンと身もだえる背中を優しく撫でてやる。    どの位そうしていただろうか。恐らくそれ程長い時間ではないのだろうが、抱擁は続いていた。少しの間沈黙が続いたが、涙のあまり乱れていた呼吸を整え、陸が話し出した。 「僕は、もともと、恋愛対象が同性だったから、こうなればいいなって思ってました。でも、そんな都合のいいことあるはずないと思ってて、辛くなる前に離れなきゃいけないって、思ってたんです。でも、今日、先輩から声をかけられて、嬉しくてたまらなくなってしまって。こんなことになるとは、思ってなかったですけど」 「ごめん、びっくりさせたかな」   身を離そうとすると、か細い声で違うんですと返事が返ってきた。海崎の服を掴むその腕は震えていた。 「もともとそっちの気があるのに、結構前から気づいてたから、友達ともボディタッチとか、避けてたし、ましてや、こんな……こんなことしたことなくて」  嬉しいんですけど、どうしたらいいのか分からなくて、こんな格好つかないところ、先輩に見られたくなかったんですと伏目がちに訴えてきた。長い睫毛に雫を滲ませ語る姿は、実に愛らしいものだった。  過去について根掘り葉掘り聞いてやろうと思っていた海崎であったが、あまりのいじらしさにその気は失せ、なるべく優しい手つきで顔を上げさせた。 「でも、陸にその気がなくても、好意を持たれることはあっただろう?」 「全然モテてませんよ。ダサい眼鏡かけてましたから」  ということは、海崎と出会ったばかりの陸はコンタクトレンズを使用し始めてから間もない状態だったということになる。しかし、眼鏡の陸というのは、想像ができない。合宿の時も部屋が別だったからか、眼鏡をかけた姿を見たことがなかった。 「あれ?眼鏡かけてたんだ」 「あんまり似合ってなかったから、大学入学を機にコンタクトにしたんです」 「眼鏡かけてるところ見てみたいな」 「駄目です。ボロボロの眼鏡だし、格好悪いから」 「今度見せてくれると嬉しいな」 「……駄目です」

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