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Love Memories:仕組まれたミッション2
淳くんの顔はまるで、イタズラが成功した子どもみたいに見えるよ。
そんな淳くんに、大隅さんが何か耳打ちした。その言葉に頷きつつ、僕に視線を飛ばす。
「ノリトー、そんな微妙な表情しないでみんなに向かって、ニッコリ笑いかけてやりなー。せっかく大隅ちゃんがキレイにしてくれたのに、勿体ないよー」
「……面白可笑しくないのに、笑えないよ」
苦笑いしながら会議冒頭で突然キャプテンの話を遮り、立ち上がった淳くんを思い出した。
「話の途中で悪いけど、みんなにすごいもの見せるねー。ノリト悪いけど、大隅ちゃんと隣にある、理科準備室に移動してくれない?」
「へっ!? あ、うん……」
吉川の隣にいた僕は渋々その言葉に従って、大隅さんと一緒に理科準備室に行った。そして中に入って目の前にあるものに、思いっきり首を傾げたんだ。
「どうして、こんなトコにチャイナドレスが?」
「ああ、それは演劇部から借りたものなんです。きっと似合いますよ、淳さんの見立てですから」
「淳くんの見立て?」
ワケが分からず、ぽかんとした僕を見上げる満面の笑みを浮かべた大隅さん。部屋の隅に椅子を設置した彼女に、おいでおいでと手招きされた。
「淳さんと一緒に、外部活が勝利するための計画を立てたんですよ。ノリトさんも計画に参加してくださいね。はい、大人しくしててください」
言いながら脇にあった、大きな箱を開ける。その中に入ってたのはメーク道具一式だった。
「ちょっ、ちょっと待って。それを僕に施すワケじゃ」
「勝つために必要なんです。絶対にキレイにしてあげますよ」
鼻息荒くした燃え盛る大隅さんに、反論できる僕ではない。かくてメークされ、カツラをつけられ――チャイナドレスに着替えた僕は恥かしく思いながら、渋々理科室に戻ってきたのだった。
(ツンデレはやっぱりツインテールですよねぇと、嬉しそうに言った大隅さんの顔が忘れられない)
自分がどんな顔をでこんな格好をしてるのか、イマイチ理解できないでいる。鏡で見せてもらってないからね。
「ノリトがいない間に、話を進めちゃってるから。この姿で劇のヒロイン決定だなぁって、みんなが納得した顔をしてるしねー」
「ヒロインって、まってよ。女子を差し置いて、どうして僕が!?」
「普通に、女子を使ってもダメなんだって。一昨年はソレで負けてるでしょー」
「だけど……劇のヒロインなんて無理だよ、絶対!」
ツインテールを揺らしながら首を横に振って、激しく抗議してみた。うっ、ムダに頭が重い――。
「インターハイ準優勝者で、弓道部の元主将のノリトが、こんな格好してるだけでも在校生の目を惹くと、俺は思うんだけどー」
「いやいや違う意味で、引かれるってば」
「……しかも相手役のヒーローは吉川だよー」
その言葉を聞いて両手に拳を作りながら抗議していた僕は、ぴたりと動きが止まってしまった。
「全国大会で2回もハットトリックを格好良く決め、日本サッカー協会に目を付けられた忙しい吉川が、わざわざノリトの相手役をしてくれるだけでも、すごいって思うんだけどー」
「おいおい、後半トゲのある物言いじゃねぇかよ、ムカつくな!」
淳くんに文句を言いつつも、目元が赤い吉川。
日本サッカー協会の目に留まり、強化選手に選ばれた吉川は、毎週末大きなサッカー場で練習に勤しんでいた。確かに忙しい身ではある。
「えっと姫がノリトくんで、王子が吉川くんだとしたら、ライバルの王子役は淳なんだろう?」
リーダーであるキャプテンに肩を叩かれ、勿論頷くと思った。
だって吉川と淳くんは、校内でも一・二を争うイケメンパラダイスなんだから。このふたりが出るとなったら、在校生の女子の票が確実に集まるのは、ぼんやりしてる僕にだって容易にでも分かる。
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