4 / 24
Love Memories:仕組まれたミッション3
「悪いねー、今回は裏方に徹するからー。俺はたったひとりの人の、王子様でありたいと思ってるんでー」
言いながら隣にいる大隅さんに、流し目をした淳くん。
その大胆発言にリンゴのように頬が赤くなっていく大隅さんを、羨ましい気持ちで見つめてしまった。
吉川がそれを言ってしまったらどこの誰だって、大騒ぎになるだけだからね(現在、彼女の捜索をされてる身なのだ)
「じゃあ誰が、ライバル役をするんだ?」
「あー、それ決めるのと台本執筆を含めて、諸々3日間くらい欲しいなー。ちなみにキャプテンは、姫の父親役だから。その体格を生かした、バッチリな配役でしょー」
淳くんの言葉に、室内にいたみんなが大爆笑した。
「短時間で仕上げなきゃいけない作業が山積みだけど、今年こそは絶対に勝つべく、みんなで頑張ろうねー」
いい雰囲気の中、皆の心がひとつになって会議が終了した。他の人が出て行って、残ったのは僕たち4人だけ――。
「淳くん、僕まったく話が見えてないんだけど。劇をやるのかい?」
「そーだよ。ノリトをめぐって、火花を散らす王子の物語」
「……悪いけどうまいこと演技ができる、自信がないよ。しかも、この格好でしょう?」
うんざりしながら、苦情を言ってみた。
「何を言ってるんですか。ノリトさん、すっごく可愛いですよ。自信を持って、演技をしてください!」
ニコニコした大隅さんに、肩を叩かれながら励まされてしまった。
「急な思いつきだったから、そんな衣装しか用意できなかったけど、劇は西洋物だからドレス仕様だよ」
「うっ、ドレスを着るなんて……」
頭を抱えながら吉川の方を見ると、ちゃっかりスマホを構えて、僕を写そうと狙っているではないか!
「何、勝手に撮ろうとしてるんだ、吉川っ」
「なぁノリ、どうしてスラックス履いたままなんだよ。チャイナドレスのスリットからすらりと覗く、生足が見たかったぞ」
(あーもぅ、この男ときたら……)
「ばっかじゃないのっ! すね毛の生えてる生足なんか、誰も見たくないってばっ!!」
「そんなの俺、関係ないし。それよか、ふくれた顔してないで、俺に向かって笑ってみせろよノリ」
「可笑しくないのに、笑えないってっ」
ツインテールから角が出てきちゃう勢いで、ものすごくイライラしてるぞ。
「しょうがないねー。吉川、それ貸してごらん」
淳くんが手にしてたスマホを取り上げ、僕のほうに吉川を寄越す。
「劇のイメージ、掴みたいからさー。んーと……ノリトの背後に回って、抱きしめてみてよー」
「こんな感じか?」
躊躇なく、僕をぎゅっと抱きしめた吉川。一気に距離が縮まって、胸がドキドキする。いくら淳くんに指示されたからって、大っぴらにこんなことするなんて。
どうしよう、ムダに近すぎだよ――。
「ノリトー、いい表情だねー。はい、撮るよ! チーズ!」
次の瞬間フラッシュが焚かれ、シャッター音がした。
「どんなの写せました?」
弾むように淳くんの傍に行き、画面を見る大隅さん。
「これは……」
(――もしかして絶句してしまうほど、いいモノが撮れてしまったのか)
「ノリトさん、受け取ってください!」
突然僕に向かって、何かを投げつける。ナイスキャッチしてみると、それはポケットティッシュだった。それですべてを悟って、背後にいた吉川の鼻にティッシュを押し付ける。
「……吉川、両鼻から鼻血が出てる――」
呆れ果てながら、デレデレしてる吉川の鼻に詰め物をしてやる羽目に……何やってんだ、ホント。
「キレイなノリに、治療されてしまった。幸せだなぁ」
誰か僕の代わりに、吉川の治療してくれませんか? このまま傍にいたらずっと鼻血が出続けて、いつか失血死しちゃうよ。
「今回はコメディ仕立てでいかない方向なのに、この写真を見ていたら、いろいろネタが浮かんでしまうー!」
お腹を押さえてゲラゲラ笑う淳くんが、スマホの画面をこっちに向けてくれた。
そこには吉川に後ろから抱きしめられて、すごくテレまくる赤ら顔の僕の姿と、デレっとした、だらしない表情を浮かべながら、両鼻から鼻血を出した吉川が写されていて。
「こんな僕たちが、主役を張っていいのだろうか……」
不安感だけが胸の中に、ぐるぐると渦巻いていったのだった。
ともだちにシェアしよう!