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Love Memories:仕組まれたミッション4

*** 「鼻血落ち着いたかい、吉川?」  ヒーローだっていうのに、毎回毎回鼻血ネタでいい加減ウンザリしてる俺を、心配そうな顔して見上げてくれる愛しいノリ。  肩を並べて、一緒に下校していた。  ノリのあの姿になかなか鼻血が止まらず、今も片鼻だけ詰め物をされたままの状態。格好悪いったら、ありゃしねぇ……。 「本番のときに吉川が鼻血を噴き出したら、どうしたらいいだろう」  なぁんて、しなくていい苦悩をわざわざしてくれるあたり、ノリらしいと言える。 「……多分、大丈夫なんじゃね? それまでにノリのドレス姿を見慣れれば、いいだけのことだし」 「よく言うよ。そのたびに鼻血を、両鼻から出しちゃうんでしょ」 「かもな! んもぅキレイさが倍増されて、ノックダウン寸前なんだぜ」  ぼんやりと今日の姿を、脳裏に思い浮かべた。  すらっとした体型に、チャイナドレスがかなり似合っているだけじゃなく、可愛らしさを強調するようにツインテールがふわりと揺れていた女装姿のノリ。  大隅さんのメイクの腕もあるだろうけど元が良くなくちゃ、あそこまで決まらないだろう。  さっすが俺のノリ、どんな格好でもこなしてしまうとは。  ――いかんっ。あの格好であんなことやこんなことを、ちょっとだけ妄想してしまった! (ちょっとってトコがミソ。それ以上してしまうと、また鼻血モノだからな……)  でもやっぱりスリットから見え隠れする、生足が見たかったかも。刺激が強すぎて、吐血してしまうかもな。  (ΦωΦ)フフフ・・ 「ちょっ吉川、何、考えてるの。顔が変だよ」  じと目をして俺を見上げるノリに、詰め物を外して深呼吸をしてみせた。 「なぁんも考えてないぜ。ああ、外の空気、さいこー!」  上手いこと誤魔化して、もう一度深呼吸したとき、カラッとした風が俺たちを包んだ。  ふわりと舞い上がる前髪を押さえながら、横にいるノリを見ると、嬉しそうな顔して口を開いた。 「週末のサッカーの合同練習、調子はどうなの?」  ( ̄_ ̄|||) どよ~ん  さっきまでのウキウキした気分が一転、複雑な心境が俺を包む。 「どうしたの吉川、急に浮かない顔しちゃってさ。らしくないよ?」 「あ……いや、その、な――」  いろいろありすぎて、どこから話をしたらいいのやら。 「ノリ、俺さ、サッカー始めてまだ3年になるか、ならないかだろ」 「うん、そうだね」 「そんな俺が、たまたま全国大会で目立った活躍ができたのは、チームのみんなのお蔭なのにさ。俺ひとりだけ強化選手になったのが、どうにも気まずくてな」  ぽつりぽつり話していくと、隣でノリは相槌を打ちながら、そっと俺を見上げる。優しい眼差しを受け止めているだけで、自然と癒されてしまった。 「チームのみんなが、どうして吉川に大事なボールを託してくれたと思う?」 「それは俺が、ナイスポジションにいたから」 「違うよ、そうじゃない」  ふわりと笑いながら、首を横に振る。 「吉川にボールを渡したら、必ずゴールを決めてくれるって信じてるからだよ。普段の練習で信頼関係を築いているのを、僕も見てるしね」 「ノリ……」  そんな風に言われたら、嬉しくて涙が出そうだ。 「みんなが吉川のことを、キャプテンとしてすっごく信頼してるし、プレイでも頑張ってる姿を見てるんだから、誰もひがんだりなんてしないと思う」 「……そうか、そうだといいんだけど。他にも、いろいろあってさ。サッカーの経験が浅い俺が、ひょっこり強化選手になって分かったんだけど、中にいるヤツラとの差がすげぇんだ、実際」  苦笑いしながら思いきって告げると、心配そうな表情を浮かべる。 「そりゃあ、各地から選ばれてきたすごい人ばかりなんだから、当たり前じゃないの? 吉川だって、ホントにすごいんだよ」  恋人贔屓してるのか、しっかり褒めてくれるノリ。 「やってることは違うけど、僕だって全国大会に出て、嫌というほどその差を思い知らされたよ。あのすごい会場によく立っていられたなって今、考えたら信じられない体験だった」 「それでもノリは頑張って、準優勝したじゃないか」 「それは、その。吉川が前日、心を込めて、おまじないしてくれたから――」  そのときのことを思い出したのか、ちょっとだけ頬を染めて、恥ずかしそうに言った。 「それだけじゃないだろ。ノリの実力もあったんだって。俺の実力は何ていうか、その場しのぎみたいな感じがしてさ」 「その場しのぎ?」 「ん……。強化選手になってるヤツラって、小学生のときからなっててさ。積み上げてきたテクニックが、全然違うんだ。それに追いつこうと、必死に食らいつくのが、やっとの状態なんだ」    経験値の差を嫌というほど思い知らされて、練習が終わると凹むしかない自分。 「それでも諦めないで、頑張ってるんでしょ?」 「そりゃ、そうだろ。選ばれた以上はみんなの分も、やってやろうって思ってるし」  そう言うと、いきなりぐるっと周りを見渡してから、ぎゅっと抱きついてきた。  相変わらずしっかりしてんなぁと、こっそりほくそ笑んで、その身体に腕を回す。 「煌(こう)は偉いね、ちゃんと努力してる。きっと、まだまだいけるよ」 「そうか? 追いつけるだろうか?」 「ん……大丈夫。何なら僕がおまじない、してあげようか?」  ノリが俺に、おまじない――それならやっぱ、アレがいい。 「じゃあさ、今日の恰好してやってみてくれないか? 絶対にすっげぇ、頑張れる気がするから」  ヘ(。-ェ-)」☆)゚3゚)ガコッ!!  言うや否や持っていたカバンで、俺の横っ面を手加減なく殴った。 「吉川のバカっ! もう知らない!!」  激怒と背中に書いたノリが、俺を置き去りにして、ひとり歩いて帰って行く。  殴られた頬を撫でながら、慌てて謝るために駆け寄った俺。超絶カッコ悪いこと、この上なかった。

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