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Love Memories:仕組まれたミッション5

*** 「悪いけどお昼休み、屋上に集合だからー。吉川に伝えてくれる?」  会議からキッチリ3日後の朝、学校に到着したばかりの僕に、淳くんから告げられた言葉に目を瞬かせた。  返事をしようと口を開きかけた矢先、そそくさと教室から出て何処かに行ってしまう。バタバタと忙しそうだな。  学祭まで残り一ヶ月ということで、今日は理事長が来て挨拶をするからと、制服の上着の着用を強要されていた。9月だけど日差しはしっかり夏なので、辛いことこの上ない。  吉川にお昼休みのこと伝えなきゃなぁと思いながら、ちょっぴり沈んだ気持ちになる。  僕の女装姿を見てからというもの、どんな格好が可愛いかと吉川なりに色々妄想が暴走して、手に負えない状態になっていた。顔を合わせるたびにそのネタに走り、デレデレした顔をして僕を心底困らせる始末なんだ。 「あんな顔を晒していたら今に、女子に嫌われちゃうと思うんだけどな」  吉川の顔を思い出しながら、教室に向かおうとしたそのときだった。 「ノリトくん、ちょっといいか?」  背後からかけられた声にゆっくりと振り向くと、そこにいたのはテニス部の部長、小林 翔太(こばやし しょうた)だった。 「おはよう、小林くん。急ぎの用事があるから、手短にお願いします……」  整った顔立ちをしているというのに、隙のない様子やまとっている冷たい雰囲気のせいで、内心たじろぐしかない。影ではテニスのアイスプリンスという愛称で、呼ばれている人気のある人だったりする。 (ううっ、怒ってるんじゃないだろうけど、どうもこの目で見られると、無条件にビクビクしちゃうんだよな。しかも挨拶をすっ飛ばして、いきなり話しかけてくるっていうのは、一体何だろうか――) 「外部活の会議の後、淳に話しかけられたんだ。配役があるかもって。それで台本ができたかどうか確認したかったんだけど、生憎アイツがいなかったしさ。何か聞いてる?」  メガネをきらりと光らせて聞いてきた。 「ゴメンね、それについては聞いてないんだ。朝から何か忙しそうにしてて、話しかけられなかったんだよね」 「――そうか。あのさ……」 「は、はい?」  鋭かった一重まぶたを細めて、少しだけ悲しげな表情を浮かべる。 「君のことは、俺が守るから」 「えっ!? どうして……」  いきなりの爆弾発言に、思いっきり顔を引きつらせてしまった。 「外部活の勝利のためとはいえ、あんな格好をするのは、君の中では恥だろう。あとからいろいろ、イヤなことを言われるかもしれない」  ――た、確かに。 「俺の友達に生徒会の人間と風紀委員の人間がいるから、ソイツらを使って取締りさせれば、黙らせることは簡単にできる」  ( ̄ω ̄;)エートォ...  テニス部の部長は影で、生徒会や風紀委員を操れる権力を持っているのだろうか? 「だっ大丈夫だよ、きっと……。人の噂も何とやらって言うし。気を遣わせてゴメンね、小林くん」 「傷つく君を見ていたくないだけだ。遠慮せずに何でも言ってくれ」 「朝っぱらから、熱烈アプローチだな小林。一体どうしたんだ、お前」  背後から聞き覚えのある声がして身体ごと振り返ると、廊下の真ん中に愛しの吉川が怒った顔で立っていた。  Σ( ̄口 ̄*)はうっ! どうして、このタイミングに現れるんだ。 「どうしたもこうしたもない。ノリトくんがあの格好をして、変な噂がたったら可哀想だろ。守ってやらなきゃいけないと考えたんだ」 「そんなことかよ。ノリのことは俺が何とかするから、お前は出てこなくていいって」  言いながら僕に近づいてきて腕を掴み、強引に背中に隠す。 「はっ! 女子の人気取りに、何ができるっていうんだ? せいぜい球でも蹴って、遊んでいればいいだろ」  (||゚Д゚)ヒィィィ!(゚Д゚||) ケンカを売るような言葉を聞いて、吉川の背中がふるふると戦慄いているよ! 「こっ、小林くん、いろいろとありがとね! 僕はホント大丈夫だから! 自己防衛本能で乗り切ってみせるから、気にしないでね!! さよならっ」  吉川が爆弾発言してキレちゃう前に肩を掴んで回れ右をし、さっさと逃げ去ることにした。  廊下の突き当りまで移動して、はーっと大きなため息をつく。 「何するんだノリっ。アイツにもっと言ってやらなきゃ、気が済まねぇんだってば!」 「気持ちは分かるけど、今はそれどころじゃないでしょ。外部活同士で揉めごとを起こしたら、淳くんが泣くよ」 「うっ……。すっかり忘れてた」  ――吉川らしい。  思わずくすくす笑った僕の頬に、温かい手をそっと伸ばしてきた。 「小林のヤローが堂々と廊下で、俺のノリに口説いてるのを見ていたら、いてもたってもいられなくなっちまった。しかも本人は、のん気に対応してるしさ」 「一生懸命に断っていたよ。僕には格好良くて、守ってくれるナイトが既にいるんだから」  触れられている手に、自分の手を重ねる。てのひらから感じることのできる温もりに、不安だった心が和らいでいった。 「吉川が守ってくれるから、大丈夫だよね」 「ノリ……」  そのまま顔を寄せてきたので、唇に人差し指を強引に当てた。 「こんなトコでしちゃダメだって。ガマンして」 「だって――」 「その代わり、昼休みは一緒に過ごせるよ。ふたりきりじゃないけど」  わざと耳元で告げてやり、シャープなラインを描いた頬に、ちゅっとキスをしてあげる。 「ふたりきりじゃないって、淳のヤツだろ。そろそろ台本ができる頃だもんな」  サプライズなキスが嬉しかったのか、やっと機嫌が直った吉川。口元にいつもの笑みが浮かんだ。 「教室で待ってるから迎えに来てよ。待ってる」  その笑みにつられて僕も笑うと、頭をぐちゃぐちゃと撫でてくれた。 「分かった、約束な――」  言うなり掠め取るように、さっと唇にキスして走り去るんなんて。 「っ……こらっ!!」  慌てて周りを見渡す僕に、ゲラゲラ笑いながら、 「約束の印だからな、朝からご馳走さん」  大きな声で言い放ち、自分の教室に入って行く。大胆な彼氏を持つと心配性の恋人は苦労するよ、まったく――。  怒りながらも内心喜んでる僕らの姿を、コッソリと見られていたなんて、このときは思ってもいなかった。

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