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Love Memories:伝わるぬくもり2
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高速バスに乗り、遠方で行われる練習場へ向かっている最中――一番後ろの窓側の席をゲット出来たお蔭で、ゆっくりすることができたのに、淳に命令された言葉が頭の中を駆け巡った。
『貴重な放課後練習ができないんだから、きちんとこの台本のセリフを、すべて覚えてきなよー。来週には、早速台本の読み合わせするんだからね!』
言いながら分厚い台本を手渡され、顔を引きつらせるしかなかった。パラパラとページをめくって、文字を目で追っていく。そして自分の役どころが何かを、しっかりと理解したのだが。
(何でノリと恋人同士の設定じゃないんだよ。絶対にわざとだな)
淳のヤツ――どうしてノリが小林と婚約してる設定にしたんだ。ふたりが仲睦まじそうにしてる姿を、練習風景から見なきゃならないのか。
だけど婚約してるクセして、ちゃっかり俺に惚れちゃうなんていうのは、ノリらしいかもしれない。
きれいなドレスを着て、俺を見つめるノリ。そして――
「アナタを一目見たときから、恋をしてしまいました。この想いをどうしたらいいのでしょう」
切なげな表情を浮かべて、ぎゅっと俺に抱きついてくる。迷うことなく俺は、ノリの身体を抱きしめるんだ。
「俺もアナタの美しい姿を見て、心を奪われてしまいました。できることなら、今すぐにでも奪い去りたい……」
棒読みではあったけど、劇のセリフを小さな声で口にしたら、頬に熱をもつのが分かった。
(ヤベェ、これを大勢の前で言うのか――)
以前大隅さんと一緒にいる淳を、俺はひどく羨ましがった。どこからどう見たって、ふたりは仲のいい恋人同士に見えるから。俺とノリとの関係は残念ながら、大っぴらにはできない関係なので、いちゃいちゃすることができるのは、人目のつかない場所でひっそりとしている状態。
そんな俺の気持ちを汲んでくれたのか淳のヤツは、すっげぇ台本を用意してくれた。
みんなの前で堂々とノリに告白されるだけじゃなく、俺もノリに告白して大胆にも抱きしめちゃったり、アレコレできちゃうという役どころは、実に美味しい。
「友人思いにも、ほどがあるっちゅーの……」
淳の粋な計らいに、じーんと何かがこみ上げる。鼻の奥がツンとしてしまったじゃないか。粋な計らいとはいえ、それでも小林の存在がウザいったらありゃしねぇな。
何を言ってんのー、吉川。どんなことにも、試練はつきものなんだよー。
そんな声が、台本から聞こえてきそうだ。淳らしいと表現すべきか。
ノリとイチャイチャしてるトコに、小林が現れる内容でムッとなってしまう。
『俺がいない間は、ノリのこと頼んだぞ。絶対に小林のヤツが練習だとか理由つけて、密着するだろうから』
そう、淳と大隅さんには言ったのだが――
『大丈夫だって。きちんといいタイミングで、邪魔をいれてあげるからー。ねっ、大隅ちゃん』
『劇の練習の支障にならない程度に、うまく対処しますね。安心して遠征行ってきて下さい』
まさか淳からノリへ小林対策のミッションが下されていようとは露知らず、台本を読み進めながら、セリフを必死に覚えた。
奇想天外な内容に、顔色がいろいろ変わったのはいうまでもない――。
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