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Love Memories:伝わるぬくもり8

***  次の日の昼休み、淳から借りていた竹刀を手に、屋上で一生懸命に素振りの練習に励んだ。  ノリがいつやって来てもいいように、そりゃあもう必死といってもいい――はじめて5分後には、額から汗が滴り落ちていた。練習に集中したいのに、意識は屋上の扉にロックオン状態である。 「ノリのヤツっ、いつになったらっ、来るんだっ!」  空を切る竹刀の音――その音を聞きながら、苛立つ自分の心を一刀両断できたらなぁと思っていた矢先だった。  キイイィッ!  遠慮がちに扉を開く音と一緒に、誰かが入ってきた気配を背中に感じた。  しかしながら振り返りたいけど、怖くて振り返れない!   (――ノリ、お前なのか!?)  俺のすぐ傍にはちゃっかりベンチが置いてあり、いつでも見られるようにしている。用意周到な吉川だと言ってくれ。ノリとイチャイチャじゃなかった、仲直りできるのなら用意周到にもなるさ。  変な緊張感を漂わせる俺の傍に、靴音を立ててやって来る誰か。どうしても気になり、チラッと振り返ってしまった。  ノリがキタ━━━━(*゚∀゚*)━━━━!!  台本を片手に、静かにやって来たノリ。  俺の視線をばちっと受けて、俯いたままベンチに座る。その表情はえらく硬いものだった。  なんだか話しかけにくいじゃないか、どうしよう……。  竹刀を振る手を休めずに、どうやってアプローチしようか考えてみるが、迷案ですら思いつかない状態。  あからさますぎるほど、困った顔で練習をする吉川を、台本越しに眺めるノリト。  困ったな――僕から話しかけるタイミングが、どうしても掴みにくいや。一生懸命に練習してるから、尚更なんだけど。  そんな吉川を見ながらだから台本を読んでいても、当然頭に入るワケがない。この状態が、延々と5分間くらい展開された。 (う~~っ、話しかけるネタは何か――あ、そうだ!) 「あ、あのさ、吉川っ!」  うおっ、声が裏返っちゃった。情けない……。 「ぁあ? 何だ?」 「えっと、そのままじっとしてて」  ブンブン振っていた竹刀を肩に置いて、窺うように僕を見る。そんな彼の傍に行き、ハンカチで額の汗を拭ってあげた。 「すごい汗だね、風邪引かないといいけど」 「大丈夫だろ。だって今、ノリが拭いてくれてるし」  無言で滴る汗を拭っていくだけで、それ以上の会話が出てこない。あんな別れ方をした昨日の今日で、何から話していいのか分からないんだ。 「吉川あのさ、昨日――」 「昨日はマジでゴメンっ! 俺が全部悪かった!」  僕の言葉をさらって、話し出す吉川に面食らう。 「絶対外さない自信はあったけど、ノリに向かってボールを蹴飛ばすなんて、今考えたらゾッとする」  持っていた竹刀を乱暴に床に投げ捨て、ぎゅっと体を抱きしめてくれた。伝わってくる吉川のぬくもりが、えらく心地良く感じる。 「(こう)……」  大切に想ってくれる気持ちが、そのぬくもりから伝わってきて、僕を安心させる。吉川の体に、ぎゅっと両腕を回してあげた。 「ノリ、怒ってない?」 「反省してるのが分かってるから、もう怒らないよ」 「じゃあ……」  両手で頬を包まれ、そっと唇を重ねてきた。熱のこもった唇を肌で感じた瞬間、カッと身体が熱くなっていく。 「んぅ…あっ――」  甘い声を出した僕を更に追い詰めるように、角度を変えてキスを深める吉川。  すっごく風が強くてそれなりに寒い、こんなへんぴな場所だけど、誰か来るかもしれない確率だってある。それなのに与えられる快感に、思いっきり身を委ねてしまう――いらない嫉妬をして、僕を困らせてばかりの愛しい恋人がくれる甘い誘惑だから、断ることなんてできやしない。  吉川は首筋に舌を這わせつつ背中からカッターシャツの中に、ちゃっかりと手を忍ばせて、僕の肌を直に触れられたときだった。シャツの隙間から冷たい風を感じた瞬間――。 「っ……くしゅんっ!」    これからってときに派手なクシャミをしてしまい、僕の顔を見てゲラゲラ笑い出す。 「俺よりも、ノリが風邪を引きそうだ。悪い、こんなところではじめちゃって」  乱したシャツを元に戻しながら済まなそうな顔して謝った吉川に、僕のほうが申し訳ない感じが満載だ。 「僕の方こそゴメンっ。せっかくのいいところを、台無しにしちゃって」 「だったら続き、今日の劇の練習が終わってからどうでしょうか、ノリーナ姫」  魅惑的に笑うと、手の甲にちゅっとキスを落とす。その仕草がすっごく優雅な上に、スマートすぎて頬に熱を持った。 「えっと、あの」 「ハッピーエンドの予行練習も兼ねて、ですけどね。いかが致しますか?」    そんな誘うような目をして言われたら、素直に受けてしまう自分がいる。 「分かったよ。いつもの場所でね」 「やりぃ♪ 久しぶりにノリと、イチャイチャできる!」  今のこの状態も、十分にイチャイチャしてると思うのにな。呆れ返りながらも、仲直りできた喜びでいっぱいになった。  その後は言うまでもなく、ふたりきりになってから思う存分乱されてしまって、大変なことになったのは、ここだけの話にしてね。

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