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Love Memories:最後の夏

 目の前で行われている内部活の劇を、固唾を飲んで見守っていた。学祭最終日、メインイベントとして体育館で、それが披露されている。  外部活の僕らに対抗するように内部活の皆さんは、女子だけで構成した劇を繰り広げていた。まるで宝塚のような華やかさに、目を見張ってしまった。  バスケ部やバレー部の背の高い女子は男役になりきって、メリハリのある演技で観客の女子を魅了している状態。僕ら男子が、カスに見えてしまうレベルである。  劇の内容もたくさんの王子様に囲まれた中で、綺麗なお姫様役がひとりという、夢のハーレム設定だった。  しかもお姫様がまばゆいばかりの美しさを放つコで、観客の男子を惹きつけて止まない。仕草の一つ一つに可憐さが混じっていて、負けないように僕も見習わなくちゃと思わされていた。 「あっちの劇を見てるだけで、自動的に落ち込めるとかヤバイなぁ」  頭を抱えた瞬間、誰かの手が腰を強引に掴んで、逞しい体に抱き寄せられる。 「なぁにを勝手に、ひとりで困り果ててるんだノリ。今日は一段とキレイだな」 「吉川……」  照明が落とされている体育館。その片隅で抱き合う僕たち。目立たないとはいえ、人目があるというのにな。 「大丈夫だ。ノリのキレイさはそこらへんの女子が、男子に見えてしまうから」 「正直、励まされてる気がしないんだけど」  それとも吉川なりに、笑わせようとしてるのかな? 彼の表現は時々、分からないものがあるんだ。 「大隅さんが褒めてたぞ。今日のノリの肌の乗りは、いつも以上に乗りが良かったって」 「早口言葉みたいだね」 「そうかもしんねぇけど、それよりもお前、もっと自信を持てよな。俺が傍にいて支えてやるからさ」  耳元で甘く囁かれる言葉に、じわりと体が熱を持つ。大好きな吉川が、心を込めて言ってくれたから尚更。 「(こう)……。ありがと」  抱きしめてる腕にそっと自分の手を重ねて吉川を見上げると、嬉しそうに微笑み返してくれた。  その姿は本当に格好よくて、胸のドキドキが止まらないよ――。  ふたりで微笑み合っていると会場から、舞台上にいる内部活に向かって盛大な拍手が贈られる。 (――さぁ、これからが僕らの出番だ!)  微笑を消してじっと吉川を見つめると、掠め取るようにキスしてきた。 「ちょっ」 「ノリーナ姫から元気をチャージ。俺ってば、何でもできる気がしてきた!」  不敵に笑ったと思ったら舞台袖に向かって、力強く手を引っ張っる。手袋越しでも伝わる吉川の体温が、じんわりと心を和ませてくれた。  僕も君がいれば、何でもできそうな気がしてきたよ。

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