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Love Memories:最後の夏2
「主役がやっとお出ましって、余裕があるねー」
舞台袖の前にいた淳くんが、大隅さんと目を合わせながら僕らを見る。
「余裕なんてないよ……。内部活の劇、すごかったね」
「すごかったっけ? 内容は単純すぎて面白味にかける。俺としては、あんなのに負ける気がしないよー」
ねーっと言って大隅さんの頭を撫でながら、自信満々に言い放った顔を見て、何だか安心してしまった。
「その自信、どこから沸いてくるのやら」
呆れた吉川が、肩を竦めながら言う。
「俺の書いた台本をボロボロになるまで読み込んで、一生懸命に演技をしてくれる優秀なキャストや、バックを支えてくれた、たくさんの仲間がいるからねー。当然じゃない?」
傍にいる外部活の皆に向かって、視線を飛ばして励ますように告げると、自然と気合が入る感じがひしひしと伝わってきた。
――こんなに信頼されているんだから、それに応えなきゃ――
僕のメイクから、女性らしい仕草を教えてくれた大隅さんや、大きな背景や小道具を作って、応援してくれる仲間たち。今までこんなに支えられてきたのに怖気ついてしまうなんて、何て失礼なことをしてしまったんだろう。
「ノリトくん、今日まで一緒に練習ができて楽しかった。どうもありがとう」
目の前に小林くんが進み出て、右手をそっと差し出してきた。
「……至らない相手役な上に、たくさん迷惑をかけてごめんなさい。いっぱい勉強させてもらったよ」
言いながらその手をぎゅっと握りしめて、握手を交わした。
「真剣対決、いよいよだな」
どこか楽しげな口調で言い放つ吉川に、小林くんは僕と手を離してから握手を求める。
「吉川、俺は負けるつもりはない。正々堂々と君を潰すから、覚悟しておいてくれ」
パシッ!
小林くんの差し出している手を思い切り叩いて、握手を拒否した吉川。好戦的なその様子に僕を含め、みんながハラハラしながら行方を見守った。
「劇が終わるまでは、お前とは仲良くするつもりはねぇから。何たって、敵同士なんだしさ」
チラリと僕の顔を見てから、小林くんに視線を移した。
(そうか……。僕を賭けたシナリオの戦いが残っているから――)
「じゃあ劇が終わったら、握手をぜひ頼むよ」
殺伐とした雰囲気が漂っているのに、それすらも可笑しいといった感じで肩を竦めて、奥のほうに行ってしまった小林くん。
「吉川、握手するの?」
「ノリとハッピーエンドの劇を演じたら、喜んでしてやるさ。しょうがねぇからな」
いきなり屈伸運動を始めて、体を動かし始めた。まるでこれからの戦いに備えての運動みたいだ。
「応援してるから、吉川」
毎日寒い中、屋上で素振りの練習を頑張っていた。それは両手の平に豆を作るレベルで、一生懸命にやっていた姿を見ていたからこそ、その努力がきっと報われるって信じている。
「ああ。ノリーナ姫を、略奪させていただきます!」
自信満々に告げた言葉に、笑みを浮かべてその喜びを噛みしめた――。
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