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Love Memories:最後の夏5
「俺のフィアンセに抱きつくとは、無礼だぞコウ王子!」
「ひいぃっ!」
(――吉川の顔が潰されてしまうっ!)
慌ててコスティス王子の腕に抱きつき、全力でそれを外してあげた。さっきから赤くなったり青くなったり、忙しいったらありゃしない。
「ブハッ……一瞬逝きかけた。ありがとな、ノリーナ姫」
「わたくしに、あんな失礼なことをするからです。以後、気をつけてくださいね」
よしよし、台本通りに戻したぞ。
(内容はかなり違うけど、セリフは同じなんだ)
自分のナイスな機転に惚れ惚れしながら、コスティス王子と一緒に身を翻し、その場を離れようとした瞬間だった。
「ノリーナ姫!!」
コウ王子がまたしても、アドリブで話しかけてきた。渋々振り向くと、潤んだ瞳でじっと見つめから、何故か投げキッスをする。
「また、あとで」
掠れた声で言い放ち、オマケといわんばかりに客席に向かって投げキッスをしてから、舞台を後にした。
キャハ━━━━(#゚ロ゚#)━━━━ッ!! という悲鳴が、あちこちから聞こえる始末。
コウ王子の潤んだ瞳は、窒息しかけて苦しかったからだというのが分っているのに、ドキドキせずにはいられない。客席の女子同様にぽわんとしていたら、コスティス王子が呆れた溜息をつく。
「ノリーナ姫、行きますよ!」
ハッと我に返ったものの乙女な僕の様子は、客席にいる全員に充分に伝わっていたよと、あとから淳くんが教えてくれたのだった。
舞台袖に戻り、次の場面に切り替わるまで壁にもたれかかって、やっと一休みする。
「吉川のバカ……。台本にないこと、勝手にしてくれちゃってさ」
向こう側の舞台袖にいる吉川には伝わらないグチを呟くと、小林くんが隣でクスクス笑う。
「悔しいが、認めてやるしかないな」
メガネを上げながら、嬉しそうに告げた言葉に首を傾げる。
「君の演技、悪くはなかったんだが、言葉に多少の硬さがあったからね。だがアイツがアドリブを入れた瞬間から、客席を魅せる表情が出てきたんだ」
「そんな……変わったかな?」
アドリブを入れられて内心あたふたしたというのに、こんな風に評価されるなんて、正直ビックリだよ。
「ああ。君の良さを引き出しつつ、客席にもアピールを忘れない。ムカつくほど、できた男だねアイツ」
自分のことよりも、吉川を褒められることが嬉しくてつい、はにかんでしまった。
「その顔、舞台上でも忘れずに出して下さいね、ノリーナ姫」
肩をぽんぽんされながら、指摘された言葉を忘れないように、心の中に刻み付ける。
「ありがと、コスティス王子。また助けて下さい」
コウ王子に迫られ困っていたところを、力ずくではあったけど助けてくれたのを思い出し、笑いながら口にしてみた。
「さて、どうしたらいいものだろうか。多くの観客は君たちの熱い抱擁シーンを、もっと見たがっていたようだが」
「見たがっていても、見られたくはないよ」
「吉川的には、牽制のつもりらしいけどね」
「牽制って、小林くんに?」
苦笑いを浮かべながら、こちらを窺う視線。それをバッチリと受けながら質問してみた。
「俺を含めて君に魅せられた、客席の男子に対しても。舞台上からあの視線を飛ばされたら、誰も手を出せないだろうけど」
あの視線――?
「この先、またああやってアドリブ入れて牽制していくだろうから、是非とも頑張ってくれ」
「ええっ!? またやるの?」
奥に向かって歩き出した背中に、大きな声をかけてしまった。
「正々堂々と君を口説けるんだ。これは俺のものだと、アピールしまくるだろうね。巻き込まれる俺も大変だよ、やれやれ」
肩を竦めて、去って行くコスティス王子。恋敵だというのに、あっさりと身を引くようなセリフを吐かれ、どうしていいか分からない。
「ノリーナ姫、出番です」
困り果ててるところに、演出から声がかけられた。複雑な気持ちを抱えたまま、舞台上にスタンバイする。
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