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第2話(帝国ホテル編)

 その言葉には苦笑するしかなかった。実際自分も同じ事を考えて居たのだから。 「疲れただろう。シャワーでも浴びて来たらどうだ」 「先に入っても構わないのか」 「勿論、お前の後には俺が入る」  片桐は頷くと、浴室の方に向かった。  片桐が浴室に消えた後、疲労を感じた。無理も無い事だった。送別会では主賓として振る舞った上に、その前は留学準備に忙殺されていたのだから。しかし、それも終った。この二日間は彼と一緒に過ごせるのだから。  安楽椅子に座り、彼が浴室を出てくるのを待つ。  目を瞑ると、今までの事が走馬灯の様に頭を駆け巡った。最初は嫌って居た彼の事、そして次第に惹かれて行った過程、そして悪夢の家族への露見とその後の懊悩と絶望の日々。ただ、片桐や自分に協力して下さった方の顔を思い浮かべると感謝の念が生まれる。  協力して呉れた人々は、自分というよりも片桐の人間的魅力から動いて下さった節が有る。その事で嫉妬心は起きないが、自分も成長したいと痛切に思った。  浴室の扉が開きバスロウブ姿の片桐が現れた。予想していたよりも早かった。バスロウブはどうやら外国人の大きさに合わせているらしく、彼には幾分大きい。鎖骨も見えてしまって居る。そこには自分が付けた紅い情痕が湯上りのせいで一層艶かしく映った。  片桐は微笑みかけた後、唇に指を沿わせて居る。椅子から立ち上がり、彼を抱き締めて唇を奪った。片桐は目を閉じてされるがままだったが、僅かに開いた唇から舌を絡めると彼の方からも積極的に口腔をなぞって呉れる。上顎の辺りや歯茎の辺りを愛撫され、欲求に火が点いた。  名残惜しげに唇から離れた時、口での情交の激しさを物語る様に二人の唾液が銀色の架け橋となって居た。  バスロウブから見えていた鎖骨部分を強く吸引する。  彼の身体が震えた。痛かったのでは無いかと彼の顔を見ると、更に上気した頬と眼差しがそうでない事を告げていた。彼は両手で髪をかき回して呉れている。  そこでふとした疑問が湧く。 「髪の毛、洗って来なかったのか」  一瞬の躊躇の後、片桐は言った 「ああ、どうせ後でもう一度バスルームに行くと思ったから……洗わなかった」  暗意を悟って、彼も自分と同じ事を望んで居る事を知る。  そっと、彼の身体の輪郭を手で辿る。バスロウブ越しなので良く分からなかったが、彼も欲情している様だった。  このまま事を進めてしまえという感情と浴室でシャワーを浴びなければという理性が錯綜して居る。  片桐が湯を使って来た以上、自分も使うべきだと苦渋の、しかし甘美な決断をする。 「鎖骨の上の痕、誰にも気付かれなかったか」

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