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第3話(帝国ホテル編)

「気付かれない。服は自分で着ているから。  ……ただ、時々は鏡に映して晃彦を恋しく思って居た。そこを指でなぞるとたまらない気持ちに成った。どれだけこうしたかったか……」  そう言って、片桐は自分から口づけてくれた。嬉しさの余り声も出ない。このままだと彼を有無を言わせずに押し倒してしまいたくなる。 「浴室に行って来る。寝室で待って居て呉れるか」  片桐は無言で頷いた。多分自分は、これまでの最高速度で浴室から出て来るだろうと思った。  浴室の隣に脱衣室が有るので正装を脱いでいると片桐の衣装がきちんと畳まれて置いてあった。女中に脱衣の後始末を頼むのはこの世界では当たり前の事だ。  片桐は本当に自分の事で出来る事はして来たのだろうと思った。勿論これからはこの様な事は自分でしなければならないので片桐と同じ様に畳もうとするが上手くは畳めなかった。これは次回への課題としようと思い、適当に脱ぎ捨てて浴室に向かった。  逸る心のまま素早くシャワーを浴びて片桐と同じくバスロウブに手を通す。そしてすぐさま寝室に向かった。  片桐はベッドに座って待っていた。自分が入って行くと以前、学校の窓越しに見せた様な、いやもっと深い微笑を浮かべていた。以前よりも雄弁に愛情を浮かべた瞳とでも表現すべき微笑。  その瞳に誘われて彼へと手を差し伸べた。腕を握って自分の胸元に抱き込む。  片桐が満足げな溜息を漏らした。お互いの抱擁が深くなる。ただ抱き締めるだけの触れ合い――それでも満たされていると感じた。しかし、それだけではもう満足出来ない。  ゆっくりと片桐のバスロウブをはだけた。夏の日差しが彼の上半身を照らす。  カーテンを閉める事を忘れて居たので閉めに行く。室内は薄暗くなったが、それでも彼の輪郭ははっきりと見える。自分よりも少し細めの男性の身体、それでも情欲は掻き立てられる。  まだ座っていた片桐を立たせて、抱き締めたまま接吻をした。唇を重ね合わせるだけの口付けに二人の呼吸が一つに成る様な錯覚を覚える。腰から背中にかけて手を滑らせると、彼も同じ動作で応えて呉れる。  唇が弛んだのを見計らって舌を進入させる。歯列をなぞり、舌を絡めた。彼も自分の動きに合わせて舌を絡ませた。お互いが貪る様な貪欲さで口付けに耽った。   彼の手がそろそろと動きバスロウブをはだけてくれる。  同じ様な姿になって彼を見ると鎖骨の辺りに嫌でも目に入る。自分の所有の証が刻まれた肌を見ると切ない程の愛情が湧き上がる。  彼の右手を握って、鎖骨に唇を落とす。強く吸い上げると彼の身体がしなやかに反った。その身体を逃さない様に両手で彼の背中を甘く拘束し、反対側の鎖骨部分も同じように唇で愛撫した。心行くまで彼の鎖骨を味わうと、首筋に唇を這わせた。時折、彼の身体が強張る。そこはすかさず唇で強く吸った。片桐は片手をベッドに置いて身体を支え、もう片方の手は自分の背中に回している。その手の強さでどこをどうすれば感じるかを教えてくれる。首筋から耳たぶに唇を這わせた。耳たぶの後ろの皮膚に唇を合わせると、彼の手が一層強く背中に巻きつけられた。舌で丹念に愛撫すると時折、彼の身体が痙攣したかの様に震えた。  彼の反応は自分の興奮を否が応でも高める。  耳元で熱く囁いた。

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