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第5話(帝国ホテル編)

「ここを……」  そう言って手で自分を促した。  彼の涙を舌で優しく吸って居た。涙は塩辛い筈なのに、今の自分にはとても甘く感じた。  以前の片桐との情交との差異に改めて気付く。数回きりの慌しい触れ合いの中で彼は必死で目を見開いていた。全てを網膜に焼き付ける様に……。  それが今回、彼は目を瞑って居る。これは片桐なりの安堵感の表れで無いかと思う。  以前は何時、露呈して引き離されるか分からなかった間柄だった。片桐は一期一会とばかりに自分との情交を視覚にも覚えこませておこうとしたのだろう。  それが今回からは引き離される恐れは無くなった。それで羞恥の余り顔を隠そうとして居るのではないかと推定する。多分それは当っているだろう。  片桐の手が自分の右手を掴み、とある部分に誘導した。彼は左手で顔を覆ったままだった。ただ頬はいつもより一層紅に染まっているのが指の間から見えていた。  その一点とは予想していた場所では無かった。――自分達が繋がる為の場所だった。  誘導が終ると、彼の右手は顔を隠す為にまた元の場所に戻る。手は震えて居たが、以前の様に精神的なものから来る震えでは無い事は素人目ながらも判断は付く。  右手でそっとその場所の回りを愛撫すると、彼の背中がしなやかに反った。それと同時に息を吐く気配がした。  許されて居るのだと思うと、それだけで胸の鼓動が高まる。  中指で優しく蹂躪する。一切の抵抗は無く、すんなりと彼の内部に進む事が出来た。とは言え、彼が全くの苦痛を感じて居ないわけではない事は、少し苦しげな押し殺した声で分かる。 「痛いのなら……、俺は我慢するが」   そう言って指を引き抜こうとすると、彼の内臓の一部が引き止める様な動きをした。 「大丈夫……だ……。痛くとも……構わない。この身体で……晃彦を感じたい」  手で顔を覆ったせいか、幾分聞き取りにくい声だったが、彼の言いたい事は分かった。 何度目の事かは分からないが、歓喜が胸を浸す。  受け入れている入り口を人差し指で撫で回す。彼のはだけたバスロウブが更に乱れる。   これも彼が身体を、しならせるせいだった。ただ、自分の為に彼がこの様な乱れた様子を見せて呉れる事は筆舌に尽くしがたい悦びだった。  中指で彼の内部を味わい、人差し指で受け入れる箇所を辿っていると待ちきれない様にその箇所がさざ波の様に奥へと導こうとする。耐えられなくなって、人差し指も彼の内部に侵入させる。  あたかも待ち構えていた様に彼の内部に締め付けられる。  彼は相変わらず顔を手で覆っていたので表情は分からないが首筋まで上気してほんのりと紅色に染まっている。その綺麗な肌の上を涙とも汗とも分からない水滴が一滴零れ落ちた。  もう少し弛緩させた方が彼の為にもなるだろうと彼の内部を注意深く探る。男性の内部にも感じる場所がある事は帝大医学部に通っている親戚の者から聞いた覚えが有った。  中指で彼の内部の上方を探って居ると、より一層彼の身体が跳ねた。釣り立ての魚の様に。  彼が熱い吐息を零しながら、押し殺してはいるが切羽詰った声を上げた。 「あ……、そこ……は……」  その声を聞くともう止まらなかった。

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