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第7話(帝国ホテル編)

 先程閉めた筈のカーテンだったが、急いでいたため完全には閉めきっておらず、夕日が数条部屋を照らしていた。  橙色の夕日が自分達を照らして居る。特に片桐の様子は余すところ無く見て取れた。  少し苦しげに上下する胸、その上には自分が付けた紅い花びらの様な情痕がくっきりと見て取れる。そして、彼が絶頂に達した際に放出した白い液体が、白い腹や太ももから滴っている様子は夕日の橙色の陽光と絶妙な色の差を持っていた。  その雫が二粒、一粒ベッドに落ちて行く時に陽光が反射して真珠ともオパアルとも見える宝石の様に見える。  片桐は茫然自失の状態から抜け出すと、繋いだ手をそのままに、二の腕を使って顔を隠そうとした。どうやらかなり恥ずかしいらしい。彼の白皙の顔が今まで見た事が無い程、赤い色に染まって居た。  お互い無言だったが、その無言が却って親密さを表現して居るように思う。とても居心地の良い沈黙と、そして片桐の内部。  片桐の息が普通の状態になるまでじっと手を繋いで居た。彼の顔に滴っている汗を唇でそっと拭って居た。 「晃彦……もう大丈夫だから……」  そう言って片桐は恥ずかしそうに微笑んだ。一旦手を解き、額に貼り付いている彼の髪を整えた。 「まさか。あれだけでこんなになるとは思わなかった」  意味ありげに太ももに滴っている白い液体を唇で優しく吸い上げた。  その後、改めて両手を繋いだ。真っ赤に成った片桐は、再び二の腕で顔を隠そうとしたが、そうはさせじと今回は力を込めて手の力を強くした。 「久しぶり……だったから……。オレは晃彦とずっとこうたいと思って……いたから、多分そのせいかと……思う」  吐息と同じ程の声でそう伝えて来た。  それと同時に彼の内部が生きている絹の様に動いた。  許されているのだな……、そう思うと精一杯優しく動いた。彼の中を緩く動く。その度ごとに彼の握った手の強さが増していく。  先程知った彼の弱点を自分ので突くと、彼のこめかみや顎から汗がとめどなく流れ落ちる。勿論涙も。  動くたびにそれらが陽光に反射していた。  彼の内部は侵入者を悦んでいる様に、ぴったりと纏わりつき離そうとはしなかった。暖かい彼の中にゆっくりと進入し、そして出る時になると引き止める動きを見せて呉れるのが嬉しかった。  片桐は二の腕で顔を隠しているが、悩ましげに唇が動いて居た。呼吸も自分の突き上げに呼応して居る様だった。  声が聞きたい。自分を欲しがる声を…と思ったが、恥ずかしがり屋の彼の事だ。もっと夢中にさせなければそれは叶わないだろう。  重厚な大谷石の部屋は二人の湿った呼吸音と肉体と肉体の絡み合う湿った音だけが満たしている。部屋の湿度が高くなっているのが分かる。  片桐は依然として顔を隠して居たが突き上げる動きに同調出来ず顔が見える時も有った。これほどの快楽を得ていても彼の顔は歪むこと無く、少し苦しげに寄せた眉間と紅潮した顔、そして零す涙だけが行為の最中である事を知らしめているだけだった。  彼の内部はしなやかに動き、自分を更に奥に引き込もうとする。強すぎず、弱すぎず丁度良い力加減だった。  彼の浅い部分を突くと彼の手の力が弱まり、慌てたように背中に爪を立てて来た。几帳面な彼の事だ、爪も綺麗に切りそろえられている。さほどの痛みは無かったが、もっと爪を立てて呉れればいいのにと思う。片桐の鎖骨の刻印の様に自分の背中にも彼の痕跡を留めたいものだと思う。

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