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第11話(帝国ホテル編)

 片桐も浴衣姿でやって来て、部屋を見る。彼の顔は羞恥に染まっていたが、感心したように呟いた。 「良い機会で部屋を整えられるものだな…。貴賓室だけ有って客の動向に一々気を配っているのだろうか……」 「そうだな、島田さんなどが気を利かせてくれたに違いない。恐らくシャワーの音で分かったのではないか」 「そうだな……」  彼の身体からは石鹸の香りが漂ってくる。  その香りに誘われて、首の後ろに手を回すと彼の唇を貪った。片桐も唇を開き、侵入してきた舌を絡め、それでも飽き足らない様に、そっと舌の先を舌で噛んだ。  その動作は、意外な程、興奮を高めてくれる。  きちんと敷布が敷いてある寝台に彼を促す。彼も従容として寝台に上がり、きちんと着付けた浴衣の帯を解こうとした。  それを指で抑え、浴衣の帯を解いた。彼の浴衣姿は珍しいので、自分の手で脱がせたかったからだ。  片桐は苦笑して、帯を解いてくれた。お互いが同じ事をしているのが妙におかしい。  帯を解くと、彼の裸体がちらりとでは有るが露出する。  鎖骨に咲いた真っ赤な情痕が艶かしい。もっと彼の身体に淫らな刻印を刻みつけたい。渇仰にも似た祈りだった。  鎖骨に歯を立てていると、片桐の呼吸が早くなった。  一度目の情交で感度が上がった様だった。  髪をかき回し、無言でもっと先の行為をねだって居る。  そんな彼が溜まらなく愛しい。  身体を密着させて、強く抱き締めた。すると彼の中心に血流が集まっているのが分かった。自分とてそれは同じで有ったが……。  一度目の情交のせいか、本能が理性の支配を振り切ってしまったようだった。  それは彼も同じらしくいつもより眼差しが熱っぽく潤んでいた。  彼は熱が集中している箇所を躊躇いがちに触って呉れた。そして、さも大切そうに頬を摺り寄せた。  彼の紅潮している頬の感触が自分の神経が最も集中している場所に触れた刹那、大きく震えた。  このままでは直ぐに頂点に達すると思い、そっとで、彼の行為を制する。彼の身体に覆いかぶさってから、彼の男性の象徴を滑らかで繊細な指遣いで愛撫した。彼のこめかみには汗が浮かび、眦からは涙の雫がぽとりぽとりと敷布に伝う。切れ長な彼の目元も紅くなっているので、紅色の薔薇に水滴が付いているかの様だった。  時折、感じる箇所に当るのか、彼の顎が上を向き、敷布を掴んだ指の力のせいで布が波立った。  涙をそっと吸い上げていた。 「晃彦…もう…大丈夫…だから」   湿度を感じさせる声で片桐が訴えた。おもむろに両足を広げ、膝を曲げたまま倒す。  本当に大丈夫なのだろうかと危惧はしたが、こちらも興奮の極みに有る。  彼の繊細な、魂の近くにある場所へとゆっくりと腰を進める。  先ほど放ったものが残っていたせいだろうか、彼の絹を思わせる熱い内部はそれ自体が生有るもののように蠢動し、内部へと誘い込む。  少し上向きの角度で進入し、目当ての場所を突付く。 「あ、…あきひこ…そこ…」   常ならぬ声で彼は切なげに訴えた。  自分を欲しがる片桐の嬌声。その声に充足感を覚える。弱い場所をじっくりと征服していると、彼の声が切羽詰ったものへと変化する。

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