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第15話(蜜月編)

 目覚めたてだったのか、舌が上手く回らないらしい。いつもより子供じみた口調に、愛おしさが溢れる。 「そうだ。着替えてダイニングに行かなければ」  片桐は頷くと洗面のためだろう、洗面室に向かった。  荷物は二人とも解いては居なかったが、荷札で中に何が入っているのかは分かる様に二人で相談して荷造りして来た。  自分の荷物から燕尾服を取り出し、小物などの出し忘れが無いかを確認してから片桐の荷物も開けて同じように準備する。その後洗面室に向かった。  鏡があるので自分が入って来た事に直ぐに気付いた片桐は、はにかんだ様に笑った。 「晃彦のお陰で良く眠れた。有り難う」 「いや、俺も途中で寝てしまったのだからお互い様だ」  手早く準備を済ませるとメインダイニングに向かった。 「カギ、閉めたか…な」  廊下を歩いていると片桐が呟く。どう考えても彼の方が性格が几帳面なので、カギは彼に頼ろうと決めていた。  そういえば。彼がカギを閉めている場面は見て居ない。 「戻ってみるか」 「すまない…」  自分達の部屋の扉を開けると、すんなり開く。この辺りは特等船客と船員しか通らない。ただ念のため、金庫を始めとしてざっと船室を見回す。 「別に異状は無い様だ」 「良かった…何だかぼうっとしていた。すまない…晃彦これからは気を付けるから」  自分を責める片桐の口調だった。気にしていない証拠にと、彼の唇を一瞬奪い、お互いの息が掛かる近さで言う。 「これからは二人で気を付け合おう。人間誰だって間違いは有るのだから」  そう言って、カギの束を手に持った。船室のカギ、金庫のカギ、そして、デッキのカギと種類が多い。  特に特等船客はデッキに入る時はカギが必要な事を知らされていた。特等の人間は二等・三等のデッキにも入る事が出来るが、特等から二等のデッキに行く時にはカギは付いて居ない。しかし、二等のデッキから特等のデッキに入る時にはカギを使わなければならないとちらっと見た、船内案内書に書いてあった。 ――片桐は、神経質で几帳面だが、時々抜けているのだな――  そう思おうと、一層自分と片桐の距離が縮まった気がした。  特等船室専用のプロムナァドは、流石に御皇室の方も御用達になるだけの事もあり、優雅かつ繊細な作りになって居る。日本情緒と仏蘭西風の見事な融合だった。それにも負けていないのが片桐の存在だ。彼の燕尾服姿は何回も見た事が有るが、何時見ても見飽きる事の無い姿だった。   つい、彼の少し後ろを歩いてしまう。彼はカギの束を持ったまま歩いている。首筋から肩にかけての線が絶妙だ。肩幅は普通位だろうが、胴回りが細いので流線型に見える。と言っても胴は女性の様な円形ではなく男性的な四角い形をしている。後ろ姿も絶品だ…と思って彼の後ろから歩いていると、片桐が怪訝そうに振り返った。 「晃彦、何故並んで歩かない」

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