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第17話(蜜月編)

 彼女は中々可憐だったが、絢子様や親友三條の婚約者となった片桐の妹の華子嬢とは比べるのが可哀相なほどの容姿だった。とは言え、彼女がどれだけの美貌の持ち主でも心を傾けない自信があったが。  ちらりと片桐を見ると、矢張り気にしているのだろうか、浮かない顔つきだった。彼は強引に会話に入って来る様な性格ではない。 「留学の旅ですので、勉強が忙しくあまり余裕は有りません」  無表情に言うと、食事に専念する。  彼女は気分を害した表情を一瞬浮かべたが、笑顔で何くれと無く話しかけて来る。  大人気ないとは思ったが、彼女が十喋ると二程度の返答をしていた。  だんだんと彼女の顔が曇って来た。邪険にされているのが分かったのだろう。隣の父と話している。  そんな様子を片桐は見ていた。彼女が父親とばかり喋るようになってから、小声で話しかけてきた。 「あの御令嬢と話さなくていいのか」 「礼儀正しくは話した。……お前の顔の笑顔が一番大事だ。令嬢と話していた時のような顔はさせたくない」 「……そうか……」  ぽつりと言って、ナイフとフォークを操っている。その指に見惚れて居た。いつもより綺麗な食べ方は――とは言え、いつも彼のフォークやナイフを使う時も充分綺麗だったが――彼の嬉しそうな心情を表して居るようだった。  いつの間にか、デザァトの時間になっている。片桐も残さずに食事を済ませた様だった。  食べ終わり、席を立つと、片桐も同じように席を立った。 「これから何処に行きたい」  そう聞くと彼はしばらく考えて、談話室に。と答えた。  談話室は、ダンスパーティが開ける事が出来る部屋もあり、そちらは乗船一日目ということでパーティが開かれていると船長が言っていたのを思い出した。それならばと、比較的小さい談話室に足を踏み入れる。  ダンスが苦手な者や話をしたい者が集まっている部屋だった。 「ダンスの出来るほうか」  そう確認すると、片桐は首を振った。 「片桐、先に行っていてくれないか。洗面所に寄ってから行く」 「ああ、そういうことなら」  そう言って談話室の前で別れた。  談話室に入って行き、片桐の姿を探すと、彼は頬を紅潮させ、英吉利人と思しき外国人と親しげに話していた。  あまつさえ、その外国人は片桐の腰に手を当てていた。  むっとして二人の会話に割り込んだ。  片桐の顔を見て、これは自分と居る時に見せる羞恥心から来る頬の紅潮ではない事に一安心する。そうかと言って片桐の腰に手を回すなど、許しがたい。 「何を話して居たのだ」

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