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第20話(蜜月編)

 扉を叩く音がした。船員が薬を持って来たのだろう。  片桐の扇情的な姿を見せたくないので、自分が取りに行った。  受け取った薬を差し出すと彼は先ほどのグラスを取り自分で飲んだ。 「そのままだと身体が濡れて不快だろう。シャワーを浴びて来たらどうだ」 「ああ、そうする」  バスルゥムに近接して更衣室とでも呼ぶのだろうか、そこに彼が入って行った。すると間もなく転んだ様な音がした。 「大丈夫か」 「心配掛けて済まない。少し足がふらついて。」  シャツを脱ぎ、ズボンも半分脱いでしまっている彼に鼓動が高まる。 「一緒に浴びてやろうか」  真剣な提案だったが、彼の羞恥心を煽ったらしい。 「シャワー位1人で浴びられる」  酔いではなく、羞恥からだろう彼の白い頬が紅潮している。 「馬鹿を言うな。シャワー室で転んだらどうする積りだ。打ち所が悪かったら怪我も酷いぞ」  先ほど、更衣室で転んだ失敗が彼を怯ませたのだろう。 「…シャワーは1人で浴びる。ただ、転倒しない様に見ていて呉れないか」  彼に取っては最大限の譲歩らしい。頷いて、自分もドレスシャツとズボン姿に成る。  シャワーは壁に固定されているので、勢い、彼の背中しか見えない。しかしどう理性で抑えても彼の裸体をまじまじと見入ってしまう。  そこで気が付いた。自分の視線の辿った箇所、直ぐに彼は鳥肌を立てて居る事に。後ろに目がある訳では当然ないが、肩甲骨の辺りを見入っていると、肩甲骨が震えて居る。首筋に視線を当てると、赤くなるのと同時に鳥肌が立っていた。 ――これは…-――と思い、自分のシャツが濡れるのを厭わずに片桐の顔を見た。  すると、真っ赤に色づいた顔に潤んだ瞳が縋るように自分を見つめて居る。  何も言わず前を見ると彼の一番愛しい場所が自分を欲しがるかのように揺れて居た。  接吻の雨を顔中に降らせると、彼は何も言わず、中指で唇をなぞった。  唇を合わせ、お互いの呼気を奪う様に激しく接吻した。薄紅色の唇を強引に開かせると、口腔内を思うさま貪った。片桐も負けじと下を絡ませて来る。お互いの舌が一つになったかのような錯覚を覚えた。上顎や歯茎を愛撫すると、肩に置かれた彼の手の力が強く成った。  先ほどの悪夢を忘れようと腰に回した手に力を込める。そしてそのまま下へと身体に沿って手を下ろして行く。  彼の自分以外には触らせた事もない場所にゆっくりと一本指を入れた。抵抗を予期していたがその様な事も無く、彼の繊細な場所へと迎えられる。知悉している体だ。どこを突けば彼が最も感じるか分かっていた。焦らす意味も有ってその周囲のみを愛撫する。すると、彼は待ちきれないと言うように身体の位置をずらした。その一点に当ったらしい。彼の身体がひくりと痙攣し、最後の理性をかき集めた様な細切れの喘ぎ声が浴室内にこだました。湿った嬌声が一層の湿度を帯びるようだ。

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