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第22話(蜜月編)

 彼は肩口に顔を埋め、湿った呼気を漏らし続けて居た。時々、我慢しきれないのだろう切れ切れの熱い声が混じる。  馴染ませた後、腰を動かすと、彼の内部の痙攣がひどくなった。痙攣ごとに快感が高まる。その動きに誘導されて、自分もおかしく成りそうだった。頭が達する事しか考えられなく為る。本能的に腰を動かす。彼の感じる箇所を重点的に攻める。しかし、まだ達したくないという理性も僅かながら残って居た。  少しでも気を逸らそうと彼の鎖骨の赤い情痕に強い口付けを贈る。片桐の身体がしなやかに反り返り、内部の絹の感触が一層強く成った。  浅く、時には深く彼の内部を味わう。片桐の身体は嵐に遭った若木の様にしなって居た。しかし感じ切っている顔を見られたくは無いらしく、右の肩に預けたままだった。右の耳には彼の乱れた呼吸音がせわしなく聞こえる。 「も…っ、あき…ひこっ…だめっ」  切羽詰った声がくぐもって聞こえる。腹部に当っている彼自身が限界近い事を知らしめた。  元より自分も我慢していたのだから否やは無い。両手を固く握り合って、彼の最も感じる場所を抉った時、彼は声を出さないようにする為か肩に歯を立て激しい痙攣と共に喜悦の証を湯の中に放った。同時に彼の内部も絹布をきゅっと縛る様な動きを繰り返し、絶頂を促す。耐え切れずに彼の体の中に情熱の証を放った。その感触を感じたのだろう彼の弛緩していた体が若魚の様に跳ねた。  お互い息を整えようとそのままの状態で抱き合っていた。しかし、湯を張ったバスタブの中では落ち着かない。 「出るか」  口付けをした後でそう囁く。未だ呼吸は荒かったが…。 「ああ、このままだと湯当たりしそうだ」 「実は俺もだ」  そう言って、手は握り合ったままで微笑み合った。 「晃彦…先に出て呉れないか…」  頬を上気させた片桐が目を伏せて言った。思い当たる事が有った。自分の放った体液を後始末する積りだろう…1人で。 ――俺がしてやる――そう言い掛けた時、片桐の済まなそうな口調が耳を打った。 「また、肩に傷を付けてしまって…忘我の時はつい…。済まない」  心底申し訳無さそうに言う彼に、忘れていた肩の噛み跡がじわりと痛む。 「気にするな。今日は…慣れない事をさせて済まなかった。…しかし、愛している」  耳元で囁くと耳朶まで赤くした片桐は、言葉も無く深く頷く。  白樺派の小説にしか出て来ない様な言葉を使ったが、本心の吐露だった。  もう意地悪をするのは止めようと決意して、彼のこめかみに接吻すると彼の言葉通りに浴室を出た。  バスロウブを羽織って、居間の安楽椅子に腰を掛けた。多分彼は喉が渇いている筈だ。あれだけ喘いでいたのだから。水を汲み、用意されていた氷を浮かべて待つ。

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