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第30話(蜜月編)

「お前の答えが俺の正解だ」  断言すると、彼は嬉しそうに唇を弛めた。 「お面の形だと思う。鬼には有って、他には無い物を探せば良い。それに英吉利人は日本人と全く違う使い方をするために買っていると思う。だから沢山売れた」 「鼻か…」 「そうだ。しかしヒントはここまでだ」  悪戯な微笑を浮かべた彼はそう言って、ベンチで煙草を吸って居る男に近付いて行った。彼は暫く話しかけて居たが、また戻って来た。 「晃彦、言葉が通じない。晃彦の分かる言葉か」  片桐が困った顔をして居る。彼の言う言葉は外国語ではない筈だ。お互い英語しか話せないのだから。 「方言か」 「ああ」  自分の家の旧領国と彼の家とではかなり離れて居た。二人とも帝都育ちだが、旧家臣の前ではお国言葉で話すので忘れては居ない。  片桐と一緒にベンチへ行き、国訛りで話しかけた。すると、男は嬉しそうに答え始めた。片桐の関心が何処にあるのかも分かっているので、質問を続ける。煙草が切れたら片桐から一箱貰い、一本を勧めながら話をした。正しくは自分の故郷の言葉では無かったが地域的に似ているのだろう、話は出来た。  片桐に説明した。  曰く、英吉利に渡ろうとしているのは、日本人の手先の器用さを見込まれた為で大量生産をしている工場でも人間の手作業が必要だ。始めは英吉利人に任せたがどうも上手く行かないので試しに日本人にさせたところとても上手だった。だから、「専門職」として雇う条件で英吉利に行かせる様に英吉利の会社が手先の器用な人間を集めて向こうで働かせるとの事だ。中には家族を連れて海を渡る人も大勢居る。  おおよそがこんな内容だった。  片桐は頷きながら聞いて居た。そして自分に感謝の笑みを浮かべると、説明した男性に煙草の箱を失礼にならない様に差し出している。  気が付くと、そろそろ夕食の時間だった。 「戻るか…」  そう水を向けて見ると彼は素直に頷いた。何か考えているらしかったが、敢えて話し掛ける様な事はせず、片桐の出した謎を考えて居た。三等は通路も狭いのでお互いの身体が触れ合う事が多い。片桐の体温が身近に有る。そんな事にすら幸せを感じる。  三等のデッキのカギを開けて、二等に移る。二人とも考える事は違って居たと思うが、それぞれの物思いに沈んで居たが、二等のデッキを歩いていると、異変に気付いた。

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